534話 もう一度、そして……
もう一度、神様と話をする。
決裂した場合は、強引にでも彼女の『管理』を止める。
今度の方針が決まり、俺達はさっそく行動を開始した。
未だ天使は多い。
俺達を探している。
フラメウとカマエルもいる。
それに、フランの話だと、他に高い世代の天使が複数いるという。
彼女達に見つかればアウト。
神様との対話中、あるいは戦闘中に駆けつけられてもアウト。
あんな巨大な戦力を同時に相手することはできない。
なので、陽動を行うことにした。
陽動メンバーは、サナ、シルファ、ナインの三人。
盛大に騒ぎを起こして目を引きつけて、少しでも塔の上層から敵を引き離す。
危険な役目だ。
ただ、逃げに徹すること。
そして、サナがいればなんとかなると思う。
日頃の行動で忘れがちだけど、サナはドラゴンだ。
その中でもトップクラスのエンシェントドラゴン。
単純な戦闘力なら、フラメウに匹敵するという。
「では……お嬢様。ハル様。皆様方。どうか、お気をつけくださいませ」
「それは俺の台詞だよ。無理はしないでね? 危ないと思ったら、素直に投降して。フランの話によれば、投降は受けいられる、ってことだから」
「ふふーん、自分、こういう時に言う台詞を知っているっすよ? 投降とかじゃなくて、全部倒してしまってもいいっすよね?」
「サナが言うと負けフラグみたいだね」
「あはは」
すごく大変な役目を果たさないといけないのに、三人はいつも通りだ。
だからこそ、頼もしく思う。
「また後で」
そう言って、三人と別れた。
なんかフラグみたいだ。
このまま三人とはもう……みたいな。
でも、そんなことはないって信じている。
大丈夫って感じている。
だって……
そんなフラグよりも、俺達の想いと絆の方が強いはずだから。
――――――――――
神様は世界を管理するためのシステム。
人間を救済することが存在意義。
普段は休むことはなくて、常に世界中に目を届かせているらしい。
普通の人なら体を壊したり、心がおかしくなったりするかもしれない。
でも、伊達に神様を自称していない。
一日中、活動を続けたとしても、まったく問題ないらしい。
休息も必要ない。
月に一度、メンテナンスを受けるだけ。
俺達と話をしたのは、それが目的を果たすために必要だと判断したから。
……と、絶対的に無駄な行動をとらないという。
「だから、ママは、また作業を続けていると思うんだ」
というフランの話に従い、俺達は世界を視るための部屋……展望台に向かう。
展望台は塔の最上階に設置されているという。
天上都市の、一番高い建物の、さらにその頂上。
世界の全てを把握するために、もっとも高い場所に作られていて……
なんでも、宇宙? とかいう場所に限りなく近いという。
「そんなところ、どうやって行けばいいの? ……階段?」
「まさか。階段で登っていたら、一ヶ月くらいはかかっちゃうよ」
そんなに高いところにあるんだ。
ほんと、ここに来てから予想できないことばかりだ。
「専用の昇降機があるんだ。それを使えば、10分くらいで移動できるよ」
「それはありがたい」
「でも、そんなところ、守りが厳しいんじゃないの?」
アリスの疑問はもっともだ。
ただ、フランは慌てていない。
「大丈夫。天上都市が……ママのいる塔が攻められる、なんて想定はまったくされていないんだ」
「……ああ、なるほど」
「ちょっと、ハル。なんで納得してるんのよ? 私達は、まったくわからないんだけど」
「えっと……つまり、攻撃されることを想定していないから、守備も緩い。そういうことだよね?」
「お兄ちゃん、正解♪ 今の一言で答えにたどり着くなんて、すごいね」
「さすが、ハルさんです」
いつものような、なんてことのないやりとり。
その中にフランがいることが嬉しい。
こうして、フランと手を取り合うことができた。
分かり合うことができた。
だから……
もしかしたら、神様とだってわかり合えるかもしれない。
前回の話は決裂した。
でも、そこで諦めてはいけないのかもしれない。
何度も話をすれば理解してくれるかも。
「……うん、がんばろう」




