533話 一蓮托生
「もう一度、神様のところへ行きましょう」
「そうね。それで、また話がこじれるようなら、その時は実力行使ね」
レティシアまで物騒なことを言い始めた。
いや、まあ。
確かに、話が二度こじれたら、それ以外にないんだけど……
もうちょっとオブラートに包んでほしい。
「えっと……みんなは、それでいいの?」
「はい。私は、ハルさんの案で大丈夫です」
がんばるぞ、という感じで、アンジュが拳をきゅっと握る。
微笑ましい。
「……っ……」
ナインが顔を赤くして、でも声は出さず、ぷるぷると震えていた。
「じゃあ……フラン、ここまでありがとう」
「え?」
「これ以上、一緒に行くことはできないけど……でも、フラン一人ならちゃんと逃げられると思うんだ。俺達の方が足手まといになるかもしれないからね」
「でも、えっと……」
「どうかしたの?」
戸惑うような顔をするフラン。
どこどなく、迷い猫のようにも見えた。
「私は……もういらない?」
「え? いや……いらないとか、そういう感じじゃなくて」
フランの協力がなければ、ここまで逃げることはできなかった。
たぶん、みんなと合流できず、牢に連れ戻されていたか……
あるいは、そのまま果てていただろう。
すごく感謝してる。
でも、これ以上甘えるのはよくないと思った。
ここから先、下手をしたら神様と戦うことになる。
フランがいつも口にしているように、彼女にとって神様は母親のようなもの。
戦闘に参加させるなんて、いくらなんでも……
「わ、私は……」
俺の考えていることを察した様子で、フランは言葉に詰まる。
下を見て、拳を握る。
そのまま沈黙。
声はかけない。
考えを邪魔したくない。
「……私は」
ややあって、フランは顔を上げた。
しっかりとした調子で。
強く言う。
「お兄ちゃん達と一緒に行くよ」
「……いいの?」
「うん」
その返事に迷いはない。
「ママと戦うことになったら、その……迷っちゃうかもしれない。でも、敵になるとか、そういうことは絶対にしないから」
「無理をしなくてもいいよ?」
「ううん……今は、無理をしないとダメなんだと思う」
フランは、そっと自分の胸元に手を当てた。
その奥にある気持ちを確かめつつ、言葉を紡ぐ。
「私も、なにかおかしい、って思うから。ママの言うこと、全部を受け入れられないから。このまま受け入れたらダメ。その……天使としてあるまじきことだけど、自分で考えないといけないんだな、って」
「……フラン……」
「だから、今は無理をする時。がんばる時。辛いことだとしても、苦しいことだとしても。前に進まないと。私は、それをお兄ちゃん達から学んだよ」
俺達の行動がフランを変えることができた。
そう考えると、誇らしくもあり、嬉しい。
「うん、わかったよ」
「じゃあ……」
「一緒に行こうか。俺達は一蓮托生だ」
「うん!」
笑顔のフランと握手をして……
「……なんか、ハルがたらしこんでない?」
「……いつもの師匠っすけど、なーんかモヤモヤするっす」
「……うぅ、ハルさん。私も、そういうことをしてほしいです」
「……まあまあ、いつものこと。シルファはもう慣れた」
「……なによ、それ。これがいつものことなの? ……斬る!」
「……ポーションを用意した方がいいかもしれませんね」
……後ろの方から聞こえてきた、そんな声は気にしないことにした。




