532話 後ろに退くよりも前に進む
「これからのことを考えよう」
一通りの説明が終わり、次に、今後のことを考える。
神様との話は決裂した。
なるほど。
魔王が言っていたように、神様は話が通じるようでまるで通じない。
己の存在意義を成し遂げることを最優先に考えて。
そして、その存在意義が正しいと信じて疑わない。
こういう相手は厄介だ。
自分は正しいことをしていると思いこんでいるから、説得することは難しい。
むしろ、異なる意見をぶつけると、その時点で敵として認定されてしまう。
事実、俺達は牢に監禁された。
「これからもなにも、まずはここから逃げないと」
アリスが当たり前のことを言う。
「ここは敵の本拠地よ。フラメウにカマエルに……それに、他にも強力な天使がいるんでしょう? それと、汎用の天使も。あたし達は今、獣の巣に迷い込んだ羊のようなものよ」
「賛成ね。強制転移させられたような罠や、牢のような厄介な場所もあるかもしれないわ。もう一度同じ状況になった時、逃げられるかどうか」
レティシアがアリスに賛同する。
ただ、アンジュはいまいちな表情だ。
「ただ……そのままでいいんでしょうか?」
「どういうことっすか?」
「うまく逃げられたとして、その後は……その、どうするんでしょうか?」
「「……」」
アンジュのストレートな疑問に、アリスとレティシアが黙る。
「神様の問題は解決していませんよね? そこが、少し心配で……」
「付け足すのならば、逃げた場合は戻ってこれないと考えるべきでしょう。魔法やフランさまのお力を借りることで、天上都市からの脱出は可能かと。しかし、戻ってくることは限りなく難しいのではないかと」
ナインの言う通りだ。
話が決裂した今、再び戻ってくることは難しい。
フランがいるからこそ、転移で天上都市に来ることができるけど……
そのフランが『敵』として認定された今、それも難しいだろう。
「今がチャンスだね」
「なにがっすか?」
「神様を叩くチャンス」
シルファが物騒なことを言う。
でも……
その物騒な台詞、否定できないんだよね。
今いる場所は、天上都市。
そして、そこの中枢部分。
二度、踏み込むことはできないかもしれない。
「……」
逃げるか?
あるいは、逆に攻めるべきか?
考える。
天上都市には、天使や神様のことを知るためにやってきた。
ただ、互いの思想は一致せず、話は決裂した。
どうする?
どうすればいい?
「……あくまで、俺個人の考えとして聞いてほしいんだけど」
少し考えてから、言葉をゆっくりと紡ぐ。
「俺は、神様を放っておいたらダメだって思ったんだ」
世界を管理して、再生のために尽くしてきた。
その働きは確かなものだ。
神様がいなければ、人間はとっくに滅んでいたかもしれない。
ただ……
神様と話をした時も言ったけど、もう限界なのだと思う。
人間は強くなった。
助けられるだけの存在じゃなくて、自分で立ち上がり、歩いていくことができる力を手に入れた。
いつまでも守られているだけの存在じゃない。
今まで色々なところを旅して、色々な人に出会い。
そのことを知り、そんな答えに辿りつけるようになった。
人間は……弱くない。
したたかさと狡猾さと。
そして、強さを持っているはずだ。
「巣立ちの時を迎えているんだと思う。でも、いつまでも神様の庇護下にいたら、それも叶わない。というか、これ以上は歪んでしまうような気がする」
人間と世界を守る。
神様はその使命を達するために、歪んだ行動を見せている。
軍事都市の事件がいい例だ。
政治に直接的に介入して、自分の思うような世界を描こうとした。
それはもう、守るではない。
言いなりにする、だ。
「魔王の後継者とか、そういうのは関係なくて……ハル・トレイターとしての個人の意見と感想だ。神様は暴走を始めているような気がする。だから……放置できない。ここで決着をつけた方がいいと思う」
これは俺個人の考えだ。
みんなを気軽に巻き込むことはできない。
でも……
「なら、決まりね」
アリスがまとめるように、笑顔でそう言った。




