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52話 シルファの実力

 無手のシルファが魔物に突撃した。

 武器を持たないで、戦うなんてできるはずがない。

 思わず止めてしまいそうになるのだけど……それよりも先に、意外すぎる光景が目に入る。


「えいっ!」


 人型の魔物……オークの攻撃を、特大のジャンプで避ける。

 そのままオークの肩に足を乗せるようにして、飛び移る。

 そして、その頭部を両手で掴み……ゴキリッ!

 瞬時に両手を回して、首を回し折る。


「ガァッ!」

「グルァッ!」


 仲間の仇とばかりに、二匹のオークが同時にシルファに襲いかかる。

 時に岩をも砕くという豪腕が、シルファに向けて勢いよく振るわれた。


 しかし、当たらない。

 シルファは大きく目を開き、ミリ単位で見切っている。

 事前に打ち合わせをして、演武をしているかのように、全てを華麗に避けていた。


 なんていう身体能力だろう。

 人間とは思えないくらいで、実はサナと同じドラゴンです、と言われても納得してしまいそうだ。


「ふっ! しっ!」


 シルファはくるりと体を回転させて、その勢いを乗せて蹴りを放つ。

 えぐりこむような感じで、爪先がオークのこめかみに突き刺さる。

 刃でも仕込んでいるかのように鋭利で、オークは一撃で絶命させられた。


 続けて、さらにシルファがくるくると回転する。

 そして裏拳が放たれて、オークの頬と鼻を砕く。


 悲鳴をあげてのけぞるオークを、追撃の拳が襲う。

 その拳は喉を完全に潰して、呼吸を断つ。

 オークは白目を剥いて倒れて、何度か痙攣した後、そのまま息絶えた。


「「「……」」」


 俺を含めて、みんな、唖然としていた。


 シルファのデタラメな戦闘力は、いったいなんなんだろう?

 武器を持っていないのに、なんであんなに強いの……?

 やっぱり、殺し屋という話は本当……?


「自分もやるっすよー!」


 サナの元気な声と、魔物を空高く拳で打ち上げる轟音が聞こえてきて我に返る。


「規格外ばかり見ていると、自分が平凡だっていうことを、とことん思い知らされるわね……」

「私も、一応、聖女候補というレア職業なんですけど……とんでもなく普通に思えてきました」

「「世界は広い」」


 二人がよくわからない悟りを開いていた。

 ただ、シルファの活躍がすごすぎて、俺達の出番がないくらいなので大して問題はない。


 まあ、シルファやサナだけに任せておくなんてわけにはいかないから、きちんとがんばらないといけないんだけど。


「二人共、がんばろう」

「そうね……驚くのはこれくらいにして、やることはやらないと」

「はい、がんばります」

「お嬢さまとハルさまのために」


 俺達も戦線に加わり……

 三十分ほどで、魔物の群れを殲滅することに成功した。




――――――――――




「こんなところかな?」


 辺り一面に、魔物の死体の山が。

 この半分は、シルファが単独でやり遂げた。

 とんでもない戦闘力を考えると、彼女の言葉は本当のような気がしてくる。


「みんな、怪我はない?」

「あたしは平気」

「私も大丈夫です」

「私も問題ございません」

「自分、頑丈っすから!」

「怪我したよ」

「えっ!?」


 思わぬ答えに、慌ててシルファの方を見る。

 彼女は……怪我らしい怪我をしていない、無傷だ。


 ただ、いつの間にか白い猫を抱えていた。

 あの子は、確か……シルファに懐いているという、野良猫のシロだ。


 足の辺りを怪我しているらしく、血が白い毛に滲んでいる。


「どうして、シロがこんなところに?」

「シルファを追いかけてきて、巻き込まれちゃったみたい。どうしよう?」


 表情はいつもと変わらず、声のトーンも淡々としたもの。

 それでも、シルファはどこか落ち着かないように見えた。

 自覚しているかしていないのか、そこはよくわからないんだけど……たぶん、猫のことを心配しているんだろう。


 年相応に女の子らしいところを見つけて、なんだか安心した。

 シルファは殺し屋かもしれないけど、でも、優しいところがあるんだな。


「大丈夫」

「足を切っただけだから?」

「い、いや。そういう意味じゃなくて……魔法で治せばいいよ。んっ……ヒールッ!」


 万が一にも失敗しないように、しっかりと集中してから魔法を唱える。


 淡い光がシロを包み込む。


「……にゃう?」


 弱々しい姿を見せていたシロだけど、キョトンとした顔に。

 シルファに抱きかかえられたまま、ジタバタと動く。


 地面に降ろされると、そのまま元気に歩き出した。

 シルファの周囲をくるくると回り、鳴きながら頬をこすりつけている。


 よかった、成功だ。

 足の毛は血で濡れているものの、怪我はきちんと治ったみたいだ。


 とはいえ、ちょっと心配かな?

 怪我を治療することはできても、失った血や体力までは元に戻せない。

 しっかりと休むだけじゃなくて、誰かが傍で様子を見ていた方がいいと思う。


 そのことをシルファに伝えて、


「この子を飼わないか?」

「シルファが?」

「誰かが傍にいた方がいいと思うから。シロはシルファに懐いているし、一番、適任だと思うんだ」

「んー」


 シルファは再びシロを抱えて、その顔を覗き込む。


「シロ、シルファの猫になる?」

「にゃん」

「うん、わかったよ。シルファが面倒を見てあげる」


 魔物の群れを掃討することができて……

 シルファに新しい友達ができた。

 万々歳の結果と言えるだろう。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 化け物が3人になった ということかw シルファの秘密が知りたい! [一言] 絶対猫じゃないなw
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