528話 一方、その頃……
「ダブルスラッシュ!」
壁に向けて、アリスが剣技を放つ。
技のキレは鋭く、そこらの魔物なら一撃で倒すことができるだろう。
しかし……
「……ダメね」
壁を砕くことはできない。
傷一つ、つかない。
逆に剣が弾かれてしまい、どこかに飛んでいってしまいそうになった。
「私がやる?」
同じ牢にいるレティシアも剣を抜こうとするが、アリスがそれを止めた。
「やめておいた方がいいかも。大抵の攻撃は弾かれそう」
「ふむ」
レティシアは剣を鞘に戻す。
並ではない攻撃を繰り出す自信はある。
しかし、それでもダメだとしたら?
弾かれた攻撃が仲間に向いたとしたら?
迂闊な行動はできない。
できないのだけど……
「なら、自分がやるっす!」
サナが笑顔で前に出た。
超高熱のブレスを吐こうとして……
「「やめなさい!!」」
「ふぐっ!?」
アリスとレティシアに口を強引に閉じられてしまい、ぼふんっ、と行き場を失ったブレスが口の中で爆発した。
「な、なにをするっすか!?」
「それはあたしの台詞よ。こんなところでブレスなんて吐いたら、牢を破壊できたとしても、余波であたし達も丸焦げよ」
「もうちょっと考えて行動してくれる?」
「うぅ……なんか最近、この二人、仲が良いっす」
「「……」」
それは、同じ人を好きになった共感のようなものがあるからだろう。
なんてことをアリスとレティシアは思うものの、口にすることはない。
「方法はともかく、どうにかして脱出しないと……ハルさんが心配です。ナイン、なにかわかりませんか?」
「どこかに扉があると思うのですが……」
牢は四方を壁に囲まれている。
天井も床も人が通れるようなところはない。
通気孔はあるものの、やはり、これも人が通れるようなサイズではない。
「どのようにして私達をここに移動させたのか? それを理解すれば、脱出の糸口を掴めると思うのですが」
「たぶん、魔法よね? 転移魔法で、あたし達を強制的に牢に移動させた。ううん、閉じ込めた」
「でも、今は、私達は魔法をうまく使うことができない。なにかしらの方法で魔力の流れがカットされている」
「魔力を封じる仕掛けがあるのに、魔法でここに飛ばす……矛盾していますね。なにか、仕掛けがあるんでしょうか?」
アリス、レティシア、アンジュの三人があれこれと話し合う。
その様子を、シルファとサナは、ぼーっと。
ナインは静かに見守る。
「ねえ、サナ」
「なんすか?」
「シルファ、ちょっとお腹空いたんだけど、尻尾かじってもいい?」
「ダメっすよ!? さらっと、なんて恐ろしいことを口にするっすか!?」
「残念」
二人の会話を聞いていたナインが、ふと疑問に思い、小首を傾げる。
「そういえば……我々は囚えられたのでしょうか? それとも、処分されたのでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
「処分対象ならば、このまま放置だと思いますが、囚えたのなら食事などの世話をしなければなりません。それは、いったいどのようにして提供されるのか、と不思議に思いまして」
「言われてみるとそうですね」
「通気孔から食事が提供されるわけがないし……専用の扉があるのかしら?」
「でも、それらしいものはなかったじゃない」
レティシアが言うように、牢は徹底的に調べた。
しかし、通気孔以外に外に繋がるところはない。
「なら、魔法で送ってくるんじゃないっすか? ぶわー、って」
「なによ、その擬音。変なドラゴンね」
「変な勇者に言われたくないっす」
「なによ!」
「なんすか!」
二人が睨み合う中、アンジュは考える。
考え続けて……
「お嬢様?」
「……もしかしたら、なんとかなるかもしれません」




