521話 決裂
「いつまでも弱いままじゃなくて、人間は成長します」
俺という、とても良い見本がある。
俺は、ずっとレティシアの庇護下にあった。
彼女に守られてきた。
でも、それはもう終わりだ。
レティシアの庇護下を離れた。
そして、今度は彼女を守りたいと思っている。
「人間は前に歩いていくことができます。時に失敗するかもしれないけど、でも、それを糧により大きくなることができます」
「……」
彼女は応えない。
俺の言葉を受けて考えることがあるのか。
あるいは……
「今すぐにあなたの庇護下を離れる、というのは無理です。でも、いつかは……と考えています」
「それは人間の総意ですか?」
「違います。ハル・トレイターという個人の意思です。ただ……」
「同じように考える者はいます」
アリスが前に出た。
レティシアとアンジュも前に出る。
「あたしも、ハルと同じことを考えています。あたしは……元々、弱い人間でした。でも、色々なことを乗り越えて、自分の足で立つことができるようになったと思っています。
それは一人の力ではなくて、ハルの力でもありますが……そうやって助け合い支え合うことで、うまくやっていけるのだと思います」
「私は失敗をしたわ。とんでもない失敗。でも……そこで崩れ落ちることはなくて、また立ち上がることができた。その際、あなたの力を借りていない。同じ人間の力を借りたのよ」
「人間は誰かに守られるだけの存在じゃないと思うんです。弱いかもしれませんけど……でも、互いに助け合うことができるはずです。そうやって、前に進んでいくことができるはずです」
「……」
三人の言葉を聞いて、しかし、彼女の返事はない。
ただ、そのままナイン、シルファ、サナを見る。
あなた達も同じなのか? と。
それに対して、三人は小さく頷いた。
「そうですか」
小さな一言。
納得してくれたのか?
それとも、してくれないのか?
「あなた達の言いたいことは理解しました。人間に可能性があることも認めましょう」
「なら……」
「しかし、私は私の役目を放棄することはできません。そして、可能性があると認めたももの、それはまだまだ先のこと。人間は保護されなくてはいけないのです」
「それは……!」
「これは決定事項です。どのような話を聞いたとしても、変わることはありません」
彼女が手を振る。
それと同時に、俺達、一人一人の足元に魔法陣が展開された。
魔法陣から光が立ち上がり、俺達を包み込む。
「待ってください、これは……!?」
「私に賛同していただけるのなら、このような手段を取ることはありませんでした。しかし、敵対する可能性があるというのならば……容赦はいたしません」
「まっ……」
「まって」というよりも先に、光が弾けた。
――――――――――
「……ぅ……」
気がつくと見知らぬ場所にいた。
白。白。白。
床も壁も天井も真っ白の部屋だ。
ぼんやりと発光してる。
上の方に換気口。
それだけで、他に扉らしい扉はない。
窓もない。
「牢屋……?」
ふと思いついたことだけど、たぶん、それが正しいのだろう。
神様と話をすることができたけど、決裂してしまった。
そして閉じ込められた、というところか。
「決裂したのを嘆くのか、殺されなかったのは幸いというべきか……はぁあああ、どちらにしても、わりと最悪のパターンになったな」




