表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

511/547

520話 親と子

「俺は……」


 自然と言葉がこぼれていた。


「俺は魔王を継ぎました。魔王としての使命は知っていますか?」

「はい。色々とありますが、最大の目的は、私の……システムからの脱却ですね? 私に管理されることを快く思わない」

「そうですね……その通りです」


 そこまで理解しているのか。

 でも、女性は敵対する意思を見せていない。

 あくまでも柔らかい笑みを浮かべていた。


 敵意はない。

 悪意もない。


 でも、心のざわつきは止まらない。

 むしろ加速していた。


「ですが、あなたも愛し子であることに変わりありません」

「……」

「武器を交わすのではなくて、こうして言葉を交わすことができることを嬉しく思います」


 確かに、戦わないに越したことはない。

 話し合いで解決するなら、それが一番だ。


「……なんていうか、ちょっと意外ね」


 アリスがそっと、小声で話しかけてきた。


「あたし、もっと融通の効かない、頭でっかちな神様だと思っていたわ」

「それは……うん。俺もそうだよ」

「聞いた話ほど高圧的じゃないし、ちゃんと話は通じるし……無理に敵対することはないんじゃない?」

「そう……かもしれないね」


 アリスの言うことはもっともだ。


 魔王の知識と記憶が正しいのなら、女性は、己の管理する世界こそが唯一正しいと思っているはず。

 そこに異論を差し込む余地はない。

 反対しようものなら粛清される。


 ……という認識だったのだけど、それは本当に正しいのだろうか?

 こうして話をしていると、そんなに問題はないような気がした。


 でも、胸騒ぎは止まらない。


「……もう一つ。あ、いや。あと二つ、聞いてもいいですか?」


 考えてから、さらに言葉を投げかける。


「ええ、どうぞ。あなたが納得するまで、私は、いくらでも質問に答えましょう」

「もしも俺があなたに反感を持ち、敵対することになったら、どうしますか?」

「できる限り、話し合いを続けたいと思います。こうして」

「ずっと話し合いを?」

「ずっとは無理でしょう。どうしても説得できないと思った時は、私も力を振るうでしょう。無抵抗でやられることはできません。それは、システムであることを放棄することに等しいですから」


 納得できる話だ。

 これで、いつまでも話し合いを望みます、なんて答えられていたら、その方が怪しい。


「あなたは、自分のやることを……システムが正しいと思っていますか?」

「もちろん」


 こちらも即答だった。


 その一言で。

 この一言で。

 俺は、彼女に対する不信感が一気に増した。


 世の中、絶対的に正しいものなんてない。

 戦争は、互いに正義と主張が存在する。

 殺人犯がいたとしても、その者なりの動機がある。

 討論をすれば必ずぶつかることがある。


 人の数だけ価値観があって、考え方が異なるんだ。

 それなのに、自分が絶対的に正しいと断言することができるなんて……


 確かに魔王の言う通りだ。

 彼女はとても危うい。

 今は安定しているかもしれない。

 しかしこの先、極端な考えに囚われたとしたら?

 そして、それが正しいと信じたら?


 想像も及ばないような悲惨な事態を招くかもしれない。


「納得していただけませんか?」

「それは……」


 俺の表情から考えていることを察したらしい。

 女性は少し寂しそうにしていた。


「納得は……したいです」


 思考はともかく、彼女の話に嘘はないだろう。

 荒廃した世界をここまで立て直してきたのだろう。


 ただ、この先もずっとうまくいくとは限らない。


 いや。

 そもそも、俺……魔王のような存在が生まれた時点で破綻し始めているのだ。

 本当にシステムが正しいのなら、そんな者は生まれない。

 システムというゆりかごの中で、人間は安らかに過ごしていただろう。


 疑問が出たということは……


「ただ、システムが限界を迎えつつあるのでは、と思っています」

「限界?」

「俺は過去のことを知りません。世界が荒廃していたことなんて知りません。たぶん、すごく酷い状況だったんでしょう。それをここまで回復させた。それは、本当にすごいことだと思います。でも……人間は、いつまでも守られているだけの存在じゃない」


 子供は親が守らなくてはいけない。

 しかし、やがて大人になり、親元を巣立つ。


 それと同じで、人間はシステムから脱却する時がやってきたんじゃないだろうか?

 だから、疑問を持つ者が現れて……

 さらに、天使が介入するようになったのではないか?


 そんなことを思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 人が作りし物に永遠は無い(ʘᗩʘ’) 1人の神もまた1つの個でしか無い、必ず何処かで変わるかもしれんなら(↼_↼) 1度止まる時が来たのかもしれんな(⌐■-■)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ