51話 思っていた以上に……
「これは、さすがに……」
「なんてこと……」
北出口に移動すると、魔物群れが遠くに見えた。
すでに視認できるほどに近づいている。
その数は……百ではきかないかもしれない。
地平線を全て埋め尽くしてしまうほど、土煙が立ち上がっていて……
ひょっとしたら、千を超えているのではないか?
その光景を見て、アリスとアンジュは難しい顔に。
ナインは言葉を発しないものの、主と同じような顔を。
サナはドラゴン故の余裕なのか、いつも通りのほほんとしていた。
そして、シルファは……
「よいしょ」
足や手を伸ばして準備運動を始める。
サナ以上にマイペースで、しかも、まったく恐怖を抱いていないようだ。
「シルファは怖くないのか?
「なにが?」
「今から、あれだけの数の魔物と戦うんだけど……」
「別に。戦いだから、死ぬ時は死ぬ。生きる時は生きる。それだけだよ」
あまりにも淡々とした答えだ。
シルファが殺し屋だから……なのだろうか?
「どうしたの?」
「……いや、なんでもないよ」
シルファのことについて、考えるのは後にしよう。
今は、この局面を乗り切ることを優先しないと。
「ハル、どう戦う?」
「そうだなあ……なるべく敵を引きつけてから、そこに俺が一撃を叩き込む。どれくらい削れるかわからないけど、たぶん、敵は驚くと思うんだ」
「「絶対驚く」」
アリスとアンジュが声を合わせて言う。
本当に驚くのかな?
あまり自信はないんだけど……二人が言うのなら、がんばろう。
「動揺したところで突撃。近接戦に持ち込んで、各個撃破」
「近接戦なんすか?」
「敵の方が数は圧倒的に上だけど、その分、乱戦になれば同士討ちも起きやすいと思う。だから、途中からは近接戦の方が有利になると思うんだよね」
「なるほど! さすが、師匠っす」
話しているうちに魔物の群れがどんどん近づいてきた。
そろそろ魔法の射程距離になる。
「みんな、そろそろ始めよう」
「え? でも、まだあんなに離れているわよ?」
「え? もう射程範囲内だろう?」
「え? 普通は届かないんだけど……ハルは届くの?」
「届くと思うけど……」
「「「……」」」
アリス、アンジュ、ナインが揃って微妙な顔をした。
こいつはもう……なんて言葉が聞こえてきそうだ。
「……まあいいわ、ハルだもの」
「ハルさんですからね」
「ハルさまなら、まあ、ありえることかと」
「その反応が気になるけど……まあいいや。とにかく、始めよう」
色々とツッコミを入れたいものの、そんな時間はない。
俺は、迫りくる魔物の群れに手の平を向けて、魔力を収束させていく。
まずは、第一撃。
「フレアブラストッ!」
出し惜しみなしの、全力全開の一撃だ。
赤い線が彼方に飛び、魔物の群れの中央に収束されて……
そして、爆裂。
魔物の群れを飲み込むように、巨大な炎の壁が立ち上がる。
一瞬遅れて、熱波と衝撃波がこちらにも飛んできた。
「あ、あいかわらず、すさまじい威力ね……これで中級魔法っていうんだから、もう、なにかの冗談としか思えないわ」
「私達もハルさんに負けないように、がんばりましょう!」
みんなが武器を構えて、魔物の群れに突撃を……
「あ、まって」
「どうしたの?」
「まだ早いから」
「え?」
「フレアブラストッ!」
第二撃を放つ。
「「「連射っ!?」」」
なぜかアリス達が驚く中、俺は第三撃を放つ。
「フレアブラストッ!」
「「「三連射っ!?」」」
一発目は、魔物の群れの中央に。
二発目は左側、三発目は右側に寄せて、それぞれ放つ。
「えっと……ハル? なにをしているのかしら?」
「なにって……事前の打ち合わせ通り、魔法を撃っているだけだけど?」
「連射できるなんて……しかも、三連射なんて、聞いていないんだけど……」
「あれ? 知らなかったっけ?」
「「「知らないから!!!」」」
アリス、アンジュ、ナインが口を揃えて言う。
おかしい。
確かに、この前使ったはずなんだけど……って、そうか。
アークデーモンと戦った時、アリス達は近くにいなかったっけ。
でも……
「もしかして……魔法の連射は、おかしいことなのか?」
「おかしいわよ……剣士であるあたしでも、異常だってことくらい知っているわ」
「初級であれ上級であれ、魔法は連射することはできません。多少のクールタイムが必要になります。そんな弱点があるから、魔法使いは頂点を極めることができず、物理職と同じレベルにいるんですけど……」
「連射ができるとなると、ハルさまは、その弱点を完全に克服していますね。賢者だからこその能力なのでしょうか?」
「ううん、ハルだから、って言った方がすごくわかりやすいと思うわ……」
「「なるほど」」
えっと……バカにされているのか感心されているのか、非常に判断に困る。
「とりあえず、残りを倒した方がいいんじゃないっすか?」
サナがもっともなことを言う。
視線を彼方に向けると、未だ複数の魔物が見えた。
かなり数は減っているが、全滅というわけじゃない。
それなりに距離も近づいている。
みんなを巻き込んでしまう可能性があるため、遠距離魔法はもう使えない。
「あとは近接戦でがんばろう」
「はいっ、がんばるっす! たくさん活躍して、師匠に褒めてもらうっす! なでなでしてもらうっす! うへっ……うへへへぇ」
「ちょっと、サナ……? その顔、危ない薬を飲んでいるみたいで、怖いんだけど……」
アリスにドン引きされるのも構わず、サナが突撃した。
二番手は、
「シルファもいくね」
サナに続いて、シルファが駆ける。
果たして、その実力は……?
「って、武器を持っていない!?」
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