516話 それ以上はまずいよ?
「はいはーい、そこまで。ストップ!」
フランはパンパンと手を鳴らして自分に注目を集めた。
カマエルの動きが止まる。
他の天使達の動きも止まる。
俺のことはよく知らないけど、仲間であるフランのことはよく知っている。
そんな彼女のことは、そうそう簡単に無視できないのだろう。
……聞く耳があるとも限らないけど。
「お兄ちゃんの力、理解したよね?」
「ああ。だからこそ、排除しなければならない」
「強制的に?」
「強制的にでも」
その返事を待っていた、という感じでフランがニヤリと笑う。
「それはまずいんじゃないかな? ママに怒られるかもよ」
「なに?」
「お兄ちゃんの力は、今、見た通り。排除するって言っても、そうそう簡単にはいかない。けっこうな被害が出るよ?」
「……」
「それ、ママに怒られるんじゃないかな」
「……」
カマエルの動きが止まる。
命令を出す者が迷い、他の天使達も動きを止めた。
俺を排除しなければならない。
しかし、そうしたら街に大きな被害が出るかもしれない。
俺としては、そこまでするつもりはないけど……
フランなりの脅しというか、駆け引きなのだろう。
うまいやり方だ。
「人間は排除しなければならない……しかし、そのために被害を許容する? それは神が望んでいない……ならば……いや……ならば……いや……」
答えにたどり着けない様子で、カマエルが思考のループに陥っていた。
忠誠心が高く。
そして、作られた存在。
だからこそ、こうして自分で答えを出すことが難しいのかもしれない。
「というか」
ダメ押しをするようにフランが言葉を重ねる。
「お兄ちゃん達をここに招いたのはママの意思。そんなママを無視するようなことをしたら、まずいんじゃない?」
「しかし、私は私の使命を……」
「それよりも優先されるべきこと、あるでしょ? ママのこと、とか」
「……」
沈黙。
ただ、今度は迷いを感じられない。
諦めたような感じで、警戒を解き始めていた。
「私達はなに?」
「天使だ」
「天使っていうのは?」
「神の尖兵であり、その手足である」
「なら、勝手をしたらまずいんじゃない? 使命ってのもわかるけどさ、優先順位を間違えたらダメでしょ」
「……」
「それとも、ここで徹底的にやる? 街が壊滅するまで」
いくらなんでも、そこまではしないからね?
「……わかった」
長い沈黙の後、カマエルは完全に構えを解いた。
他の天使達もそれに続く。
「確かに、フランの言う通りだ。今は様子を見ることにしよう」
「今は……ねえ」
「私は私の使命を果たす。それだけだ」
完全に和解、とまではいかないみたいだ。
一時的に退いてくれるような感じ。
うーん。
後で厄介なことになりそうだけど……
でも、これ以上は無理か。
俺が口を出しても、それはそれで面倒なことになりそうだし。
「ひとまず退く。ただし……」
「カマエルが自分の行動を正しいと確信したら、また動く。そんなところ?」
「その通りだ」
「ママが決めたことなのに……まったく、本当に自分の使命に関しては頑固すぎるんだから」
やれやれ、とフランはため息をこぼす。
「では、行くが……最後に一つ聞きたい」
「どーぞ」
「フランは、人間達のことをどう思っている?」
「……」
「この街に招かれる価値があると思っているのか? 神と話をする価値があると思っているのか?」
「それは……」
「それは?」
「秘密♪」
フランはにっこりと笑い、唇に人差し指を当てるのだった。




