513話 聞く耳を持たない
「ママのところなら絶対に安全だから。天使である以上、逆らうことはできないからね。お兄ちゃん達だけを狙う、ってこともできないはず」
「それは……」
神様との面会を望んでいたけど、思わぬ形で叶いそう?
「あ、ママに会えるかどうかは別の話ね? 突発的に決まったことだから、ママのところに行くことはできるけど、会えるかどうかはママの都合次第」
「そっか……うん、了解」
可能性があるなら、それはそれでよしとしておこう。
「よーし。じゃあ、さっそく案内をするね」
「そういえば、フラメウは?」
「お姉ちゃんはママのところまでの安全を確保中」
「なるほど」
安全に移動することができそうだ。
……なんて思っていたけど、それはすぐに間違いだと知る。
宿を出て少し。
先頭を行くフランが足を止める。
いつもの笑顔はなく、鋭い表情だ。
「お兄ちゃん」
「うん、わかっているよ」
俺の言葉にみんなも察したようだ。
いつでも動けるように身構えて、背中合わせになり死角をなくす。
周囲に妙な気配を感じた。
存在感が薄く、注意していないと感じ取ることができない。
それでも探知することができたのは、敵意があったからだ。
激しいものではなくて、さざ波のように静かなもの。
ただ普通の人が発するようなものではなくて、どことなく無機質な感じがした。
今までに感じたことのない敵意だからこそ、その異常生が目立ち、察知することができる。
「ハル、これ……」
「囲まれているわね」
アリスとレティシアが厳しい表情に。
それはすぐにみんなに伝わり、それぞれ武器と拳を構える。
「隠れているのは誰ですか?」
「お嬢様の敵というのならば……」
「ぶっとばすっすよ!」
「過激だね」
みんなの声に応えたのか、それとも最初から姿を見せるつもりだったのか。
建物の影から複数の人が現れた。
いずれも成人した男女。
ぱっと見、普通の人と変わらないけど……
ただ一点、大きく違うところがあった。
背中に広がる翼は、まさに天使のものだ。
「なにか用、カマエル?」
フランは笑みを消したまま、静かに問いかけた。
その問いを受けた男……身長二メートルを超える大男は、一歩、前に出た。
「俺が用があるのは、そこの人間達だ」
「ふーん、どんな用?」
「ここは人間がいるべき場所ではない。記憶の操作を行った後、地上に戻せ。でなければ、この場で処分しろ」
いきなり物騒なことを言ってきたな。
考えるまでもない。
彼が天上都市を騒がせている天使達と考えて間違いないだろう。
「天使が人間と関わるべきではない。そして、その存在を知られてはいけない。天使は神の尖兵であり、その手足となる者。管理されるべき人間に知られるべきではない」
「基本、そうだけどね。ただ、何事にも例外があるってことわかる? お兄ちゃん達の来訪は私とお姉ちゃんが決めたこと。そして、その決定はママも認めている。この意味わかるよね?」
「何事にも例外は許されない。そのようなことを認めてしまうと、秩序の崩壊に繋がる。ルールというものは守られてこそ、初めて効力を発揮するものだ」
「だから、ママも認めているんだって」
「そのような話は聞いていない」
「ママは忙しいし簡単に外に出れないから、ママの言葉で周囲に周知させることは難しいって、わかっているでしょ? だから、私が代わりに言っているの」
「その言葉の正確性を疑問視する」
「私が嘘なんて吐くわけないでしょ。ましてや、ママのことで」
「フラン、及びフラメウは、第五世代、第六世代型だ。バグなどが発生すれば、真実を捻じ曲げる嘘を吐くこともあるだろう。検査を推奨する」
「あーもーっ!!!」
ものすごく焦れた様子で、フランはがしがしと頭をかいた。
「この石頭! っていうか、鉄頭! なんでもうちょっと柔軟な考えができないかなあ!?」
「そのようなものは必要ない」
「うーあー!!!」
フランが叫ぶ。
叫ばないとやってられないのだろう。
「えっと……なんだか、おつかれさま」
「ありがと、お兄ちゃん……はぁあああ、ホント、疲れるよ。カマエルって、天上都市一番の石頭でさ。深い話をすると、ぜんぜん意見が噛み合わなくて……あーもう、だから今回、こんなバカなことをしたんだね」
二人の会話を聞いた感じ、カマエルは徹底的に規則を守るタイプのようだ。
例外などは絶対に認められない。
全てがルール通りにならないと気が済まないタイプなのだろう。
いや。
気が済まないって、そんな簡単な言葉じゃないな。
そうすることが己の使命であり、なにをしても成し遂げるべきこと、と考えているのだろう。
ほんと、厄介な相手だ。
「さあ、その人間達を渡せ」
「やだよ! って……お兄ちゃん、ごめんだけど……」
「やっていいんだね?」
「うん、いいよ。ただ、ほどほどに加減してくれたら嬉しいかも。他の人はともかく、今のお兄ちゃんが本気になると、たぶん、私やお姉ちゃんよりも強いから、とんでもないことになりそう」
「なんとか、被害は出さないようにがんばるよ」
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
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