510話 嫌な予感はだいだい当たる
「フラン」
ふと、第三者の声が響いた。
静かで透明な声で……聞き覚えがある。
「あれ? お姉ちゃん」
いつの間にかフラメウの姿があった。
その顔は、感情を窺うことができない無表情。
彼女のことをなにも知らずに接していた時、静かな笑顔などを見ていたんだけど……
もう見ることはできないのかな?
全部、演技だったのかな?
だとしたら寂しい、と思ってしまう。
「どうしたの? お姉ちゃん、巡回をしていたよね」
「少し問題が発生しました」
「問題?」
こちらに聞かせたくない話らしく、二人は体を寄せ合って内緒話をする。
最初は呑気な顔をしていたフランだけど、次第にその表情がこわばっていく。
「……マジ?」
「このような嘘を言う意味はありません」
「まいったな、このタイミングで……ちっ、やってくれる」
「フラン?」
彼女らしくない様子でとても苛立っている。
いったい、なにが起きたんだろう?
「どうかしたの?」
「えっと……うーん」
「フラン、ここまで来たら隠し事はしない方がいいですよ」
「でも、今、わりといい感じだったんだけど……」
「黙っていては、逆に不信感を招いてしまいます。それに、いざという時に行動が遅れ、致命的な展開になるかもしれません」
「うー……それもそっか。よし」
フランはなにか覚悟を決めた様子でこちらを見た。
ちょっと怯えているような感じ。
いたずらをした子供が親に告白するような、そんな感じ。
「えっと……ごめんね、お兄ちゃん」
「なにが?」
「さっきの話、もっと面倒なことになっちゃった。てへ♪」
……どこの話?
――――――――――
「天使があたし達を狙っている……?」
みんなが起きてきた後、改めて事情を説明した。
アリスは落ち着いていて、取り乱すことはない。
さすがだけど……
ただ、どういうこと? という感じでフランを睨みつけていた。
「いや、あの……ほんとーにごめん!」
ぱん! と両手を合わせて、拝むようにフランは頭を下げた。
「お兄ちゃんには話したんだけど、一部の天使は今回の訪問を歓迎していなくて……元々、ちょっと過激な連中で? アムズみたいな?」
「あんなのがたくさんいるなんて、ゾッとしないわね」
アムズを思い返しているのか、レティシアが眉をひそめた。
その手は腹部の辺りに寄せられている。
アムズにやられた傷を思い返しているのかもしれない。
「その……具体的に、どんな問題が起きているんでしょうか? その天使達が私達を狙っている……とか?」
「安心してください、お嬢様。お嬢様の身は、私が命に変えても守ります」
「シルファもがんばる」
「ダメですよ。その気持ちは嬉しいですけど、命に変えても、とか言わないでください。なにかあったら悲しいです」
「っ……はい!」
ナインは悶えるような喜ぶような、なんだか複雑な顔に。
「はいはーい! もしも天使が襲ってきたら、ぶっとばしてもいいっすか?」
「過激だねー……まあ、うん。そういう連中は自業自得だから、なにをしてもいいんだけど……できれば、おとなしくしてほしいかな?」
「どうしてっすか?」
「あまり暴れちゃうと、それだけ反感を持つ天使が増えていくから。もっとまずい展開になるかも」
「全部ぶっとばせばいいっす!」
サナらしい意見だけど、さすがにそれは無理だろう。
意思を持たないっていう古い天使なら、まあ、なんとかなるかもだけど……
アムズのような天使が大量に出てきたら、さすがにお手上げだ。
ゾッとする。
「俺達はどうしたらいいの?」
「今、お姉ちゃんと他の天使が対処しているから、ここで待っていてほしいな。大丈夫。ちゃんと解決してみせるから」
「それは……大丈夫なの?」
今更、フランを疑うことはない。
ただ、彼女達だけで対処できる問題なのか気になるところだ。
「んー……大丈夫! だと……思いたいような、気がしないでもない?」
「どっちなのさ」
「ごめんね。ちょっと確実なことは言えなくて……でも、私も一緒にいるから! それに、お姉ちゃんはすっごく強いからねー。たぶん、最強かな? だから、おかしなことを考えた天使達は、すぐに殲滅されると思うよ」
「殲滅?」
「処分、ってこと」
にっこりと笑いつつ、フランは恐ろしいことをさらりと言うのだった。
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




