504話 天使の街
「はい、とうちゃーく。ここが私達、天使の街だよ♪」
何度か転移を繰り返して天使の街に到着した。
「「「……」」」
俺を含めて、みんな声を失っている。
それくらい驚いている。
でも、仕方ないだろう?
こんな光景を見せられて驚かない方がおかしい。
石畳に似た道路がまっすぐ伸びている。
石畳に似た、と表現したけど、実際のところ正体は不明だ。
固く頑丈だけど、でも石じゃない。
一切の継ぎ目がないし、そもそも、石をこんなにもまっすぐに切り出すことは相当に難しい。
道路の脇に巨大な建物? が並んでいた。
空を見上げるほどに高い。
その材質は不明。
木でもレンガでもなくて、こちらも石に似ている。
ただ、これ以上ないほど正確に、綺麗にカットされていた。
こんな技術、やっぱり見たことがない。
「ここが天使の街……なんか、ちょっと……ううん。かなりイメージと違うかも」
「お兄ちゃんは、どんな光景を想像していたの?」
「えっと……自然豊かな場所で、常に虹がかかっているとか幻想的な感じ?」
「あはは。お兄ちゃんはロマンチストだね。それ、妖精の街って感じじゃない?」
言われてみるとそうかもしれない。
「私達は天使だけど、でも、管理者だからねー。しっかり仕事をするために、街もしっかりとしたものを作っているよ」
言いつつ、フランが足を進める。
俺達は慌ててその後を追いかけた。
時折、天使らしき人とすれ違う。
俺達は、ついついじろじろと視線を送ってしまう。
でも、向こうはまるで気にした様子がない。
俺達のことが見えていないのでは? というような無反応だ。
「ちょっと予想と違っていたわね」
「アリスはどんなところを想像していた?」
「ハルと同じ神秘的なところ。で、あたし達はものすごい敵視されているの」
「私も似たようなものね。フランがまあまあと抑えてくれるけど、でも、他の天使達は敵を排除しようと襲いかかってくるとか」
レティシアがそう付け足した。
わかる。
アムズの件があったから、天使というものに対して悪いイメージが強い。
襲いかかってきても不思議じゃないと思っていた。
だから、最大限の準備と警戒をしているのだけど……
そんなものは必要ないとばかりに、今のところ平穏そのものだ。
「あ、公園がありますね。花壇もあって綺麗です」
「花は……なんすか、これ」
「花びらが宝石みたいに輝いているね。もらう?」
「シルファ様、さすがにそれは……」
ただの公園だと思っていたら、細部が異なるみたいだ。
人の社会を模していて。
でも、完全なコピーというわけではなくて、天使の技術や文化が取り込まれていて。
不思議な街だった。
「そういえば、俺達はどこへ向かっているの?」
「軽く街を見て回った後、資料館に行こうと思っているよ」
「資料館?」
「天使のこと、人間のこと、魔王のこと……ありとあらゆる情報を収めたところ。イメージとしては図書館に近いかな? あれこれ説明するのは面倒だから、知りたいものを自分で調べてもらおうかな、って。その上で、最後に私から補足させてもらう、っていう」
「なるほど」
自分が主導になって情報を得られるのは嬉しい。
他人から与えられたものだと、正しいか間違っているか、わかりにくいからな。
「まあ、質問に答えないわけじゃないから、なにか気になることがあったらバシバシ聞いてね」
「じゃあ、さっそく……天使は神様の手足のようなもので世界を管理している、って聞いたけど本当?」
「本当だよ」
「言い方は悪いんだけど、なら、どうして感情があるの? 世界を管理するシステムなら、感情とかない方がスムーズに進むんじゃない?」
「んー……私達はママに作られたから、真意はママに訪ねないとよくわからないけど、推測はできるかな? たぶん、人間のことを理解するためじゃないかな?」
「理解?」
「私達は人間と、その世界を管理するためのシステム。だからこそ、人間と同じ感情が必要だと思うんだ。そうじゃないと、人間のことを理解できないからね。理解できない相手を正しく管理するなんて不可能でしょ? だから……っていうのが私の推測。ママに聞いてみないと本当のところはわからないけど、たぶん、合っているよ思うよ」
「……なるほど」
嘘を吐いている様子はない。
適当を言っている様子もない。
それに納得できる話だ。
「……感情を持っているのに、アムズみたいな酷いことをするんだね」
「あれはごめんだってば……あそこまで暴走するなんて、思ってもいなかったんだよ。ほら。人間だって、おとなしそうな人がすごい犯罪を犯したりするじゃない? それと同じで、私達天使も個性があるから、いざっていう時までなにをするかわからないの」
これも納得できる話だった。
というか……
こうして話をして、色々な情報を得ると、とある疑問が増していく。
フラン達天使はすごい力を持っているけど、それ以外は、まったく人間と変わらない?
だとしたら、管理者である神様も人間と同じ?
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




