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503話 空へ

「やっほー、迎えに来たよ」


 数日後。

 準備を終えたところで、フランがやってきた。


 待ち合わせ場所は街の外。

 どうやって天上都市に移動するかわからないけど、目立つことは間違いないだろうから、人目を避けていたらこんな場所になってしまったのだ。


「あれ? 学術都市のお姉ちゃんはいないの?」


 クラウディアのことだろう。


「クラウディアはここに残ることになったんだ。孤児院を継ぎたい、って」


 今朝、別れは済ませた。


 いや。

 別れじゃなくて、またね、という挨拶だ。

 これで会えなくなるわけじゃない。

 またいつか絶対に、という願いを込めて握手をしておいた。


「じゃあ、私達の街へ行くのはお兄ちゃんを含めて七人っていうことで間違いない?」

「うん、大丈夫」

「よし。じゃあ、行こうか」


 フランがそう言うと、彼女の足元に魔法陣が展開された。

 それは一気に大きくなり、俺達のところまで伸びてくる。


「な、なんすか、これ!?」

「サナ、落ち着いて。たぶん、転移の魔法陣だから」

「おぉ、さすがお兄ちゃん。よく理解しているね」

「これでも魔王だからね」


 魔力だけじゃなくて、魔法に関する知識も受け継いだ。

 魔法陣を見ればどのようなものか大体わかる。


「じゃ、いくよ」


 魔法陣が輝いて……そして、ゆっくりと景色が歪んでいく。




――――――――――




「お……おおおぉ」


 気がつけば景色が切り替わっていた。


 空が近い。

 空気も心なしか別のものになっているような気がした。


 そしてなによりも……


「雲がない……」


 空を見上げると青一色で染まっていた。

 雲ひとつない快晴っていう言葉は聞くけど、実際にそんな景色を見るのは初めてだ。


 って、これは……


「そっか、雲がないのは当たり前なんだ」


 だってここは、雲の上なんだから。


「すごい、島が浮いているわ……」

「ど、どういう原理なんでしょう? 端に行って見てみたいですが……」

「お嬢様、それはお止めになった方がよろしいかと。お嬢様でしたら落ちてしまうことも」

「それ、私がどんくさいって言っていませんか……?」

「……涙目になるお嬢様も素敵です」


 みんなが言うように島が浮いていた。

 どんな力を使っているのか、大小様々な島が水に浮かぶように空を漂っている。


 その下に見えるのが雲。

 白く厚い雲が広がり島を隠している。


「驚いた? 驚いた?」


 フランがドヤ顔で尋ねてきた。


「うん、驚いたよ。これは……」

「この島に私達の街があるんだよ。ただ、気軽に人間にやってこられても困るからね」

「だから、空の……雲の上に?」

「そういうこと。あと、雲は人工的に作っているよ。島を隠すために。あと、結界の役割も果たしているから、ドラゴンなんかが飛んでくることも不可能かな」

「なるほど。昔、空の散歩をしていたらガン! って跳ね返されることがあったけど、そういうことだったんすね」

「まあ、普通はドラゴンは雲の上まで飛ぼうとしないけどねー」

「自分、普通じゃないっすから!」


 ドヤ顔を決めるサナ。

 普通じゃない自分かっこいい、なんて思っているんだろう。

 でも、そういう言動は後で恥ずかしくなるものだよ。


「街はどこに?」

「何度か転移を繰り返すんだ。ここは入り口だから」


 いざという時はここで侵入者を撃退するんだろうな。

 街で例えると門なのだろう。


「じゃ、もう一回転移をするよ」

「あ、ちょっと待って」

「どうかしたの?」

「いや……うん、大丈夫。いいよ」


 念のため、転移魔法のポイントを設定しておいた。

 これでいつでもここに逃げることができる。


 ないとは思うけど、罠という可能性も捨てきれないし……

 天使の街で問題が起きて対立することもあるかもしれない。


 色々な可能性を考えると、いざという時の逃げ道は必須だ。


「じゃ、いっくよー」


 気軽な声と共に、俺達は再び転移をするのだった。

新作始めてみました。

『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』

こちらも読んでいただけると嬉しいです。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 天使に招かれて雲の国(天上界)にご招待(ʘᗩʘ’) さてさてどんな歓迎をしてくれるやら(◡ω◡)
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