502話 悩みと悩み
「うーん」
新しい旅の準備を進めつつ、ぼやく。
「アリス達のこと、どう接したらいいんだろう?」
告白された。
でも、返事は後で。
それは未来に繋ぐ約束。
返事をしなくてはいけないから、絶対に無事に帰らないといけない。
ただ……
「それはそれとして、三人の気持ちを知ったから、どう接していいかよくわからないんだよね……」
ついついぎこちなくなってしまう。
こんな状態が続くとまずいから、出立までにはなんとかしたいけど、でも、その目処が立っていない。
ナインに相談に乗ってもらおうか?
でも、彼女はアンジュをとことん推してくるような気がする。
公平に判断できる人でないと。
「シルファの出番だね」
「うわっ、びっくりした」
どこからともなくシルファが現れた。
「話を聞いていたの?」
「シルファ、隠密とか得意。えへん」
そういえば、元暗殺者だった。
「ごめんなさい。盗み聞きした。怒る?」
「ううん、別にいいよ。たぶん、悪気あってのことじゃないだろうし」
みんなの様子がおかしいことに気づいて、気になり、つい……という感じだろう。
「シルファ、相談に乗るよ?」
「え。シルファって、恋愛関係の話、得意なの?」
「まったく」
「ドヤ顔で否定されても……」
「でも、シルファはハルの仲間だから。ハルが困っているのなら、なにか力になりたい」
「……シルファ……」
「あと、今回、ちょっと迷惑をかけちゃった。その埋め合わせがしたい」
迷惑とか気にしないでいいのに。
あれは、アムズが完全に悪い。
被害者のシルファを責めるなんてことはしない。
でも……
周りが気にしないといっても、本人が気にしてしまうケースはあるか。
こればかりは本人の問題なので、納得する行動をさせてあげるしかない。
ついでに言うと、今はわらにでもすがりたい気分。
せっかくなのでシルファを頼りにさせてもらおう。
「事情を理解しているのなら説明は省略するけど……俺、どうしたらいいのかな?」
アリス、アンジュ、レティシア……三人から告白された。
返事は今度でいい、と言われた。
突然のことで俺も驚いているため、それはとてもありがたいのだけど……
でも、本当にそれでいいのだろうか?
彼女達の好意に甘えてしまっていいのだろうか?
きちんと考えて答えを出すべきでは?
……なんて、頭の中がぐるぐるとしてしまう。
「ハルは難しく考えすぎ」
「そうかな?」
「みんながいい、って言っているのなら、いい。気にしない」
そう割り切れたら楽なんだけど。
「その上で、ちょっと考える」
「ちょっと?」
「頭の片隅に置いておく。少し意識する。たまに考える……それでいい。そうしているうちに答えは出る。恋する心は自然と固まるもの」
「おぉ」
すごい。
シルファが恋の達人のようだ。
いったい、どこでそんなことを覚えたのだろう?
というか、まさか自身の経験から……?
あ、ダメだ。
なんか、ものすごくもやっとする。
嫉妬じゃなくて、なんていうか……親の気分?
シルファに恋はまだ早い! どこの馬の骨だ! みたいな。
「サナに借りた本にそう書いてあった」
「あ、本の知識ね……」
「本はバカにできないよ? 先人が積み重ねてきた知識……それが本」
「確かに」
「間違っていることもあるけどね」
「ちょっとちょっと」
人が納得しかけたのに、それを折るようなことを言わないでほしい。
「シルファは、恋とかよくわからないけど……」
どこか遠くを見て言う。
「ハルは、ハルのままでいたらいいと思う」
「俺のまま?」
「自然体。そんなハルのこと、みんなは好きになった。変わったらイヤ」
「……」
目から鱗が落ちる、っていうのはこういう気持ちなのだろうか?
シルファの言う通りだ。
俺は俺らしく。
それが一番大事なのだろう。
「ありがとう、シルファ。なんとなくだけど、わかったような気がする」
「ん、どういたしまして」
柔らかく微笑むシルファを見て、俺も笑みを返すのだった。
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




