499話 思わぬ遭遇と笑顔
「……ん……?」
朝。
カーテンから差し込む光で、ふと目が覚めた。
むくりと起き上がり、あくびを一つ。
ぼんやりとした頭で部屋を見回して……
「やっほー、お兄ちゃん♪」
フランがいた。
――――――――――
「はぁ……」
「どうしてため息を吐いているの? 疲れているの?」
「君のせいだよ」
朝起きたら、いきなりフランがいた。
すわ敵襲か!? と慌てたのは言うまでもない。
でも、実際はそんなことはない。
「人間の街を案内してほしいな」
というのが彼女の願いだった。
そのために、わざわざ俺のところにやってきたという。
ものすごく心臓に悪いことをしてくれたけど……
たぶん、彼女に悪気はないのだろう。
街の案内をしてほしい。
なら早い方がいいだろう。
よし、朝一番に頼みに行こう。
……なんて思考のようだった。
最近になって、天使……というか、フランについて少しわかったことがある。
彼女は天使なので人間の倫理観が通用しない。
ただ、それを抜きにすれば、他の部分は普通の子供とあまり変わらないのだ。
「へえへえ、ほうほう」
「住宅街はこんなところかな? っていうか、家なんて見て楽しいの?」
「楽しいとか、そういうのが目的じゃないからね。人間がどういう風に生活をしているのか、ちょっと確認をしておきたくて」
「確認?」
「ほら、人間って独自の文化を築いていくでしょ? 進化、っていうのかな。お母さん……神様は昔、人間に知恵を与えた。技術も与えた。それらを足がかりにして、人間は独自の文化と技術を発展させてきた」
フランは教師のように語る。
「今見てきた家もそう。最初に得た建築技術はもっと拙いもの。でも、人間は独自に進化をして、これだけのものを作る技術と知恵を手に入れた。正常な進化だね」
「そう言うと、異常な進化っていうのがあるように聞こえるけど?」
「あるよ」
即答だった。
笑顔のまま、しかし、恐ろしい話をする。
「時に、人間は愚かなことをするからねー。苦心の末に編み出した技術を悪用したり、あるいは、それって正気? って思うような技術を開発するし。お兄ちゃんも心当たりはあるんじゃないかな?」
「……もしかして、魔法とか?」
「正解。ファイアとか、すごく便利だよね。でも、エクスプロージョンなんて大爆発を起こす魔法、使用用途は大量殺人がメインじゃない?」
「そんなことは……」
「うん、そんなことはない。困った魔物とかいるからね。そういうのを相手にするとしたら、エクスプロージョンくらいの威力は必要。だから、グレーゾーンだけど『アリ』っていう判断になった。でも、ちょっと危ない技術なんだよ、魔法って。それと同じで、他にも似た危ない技術はあるんだよねー」
「……結局、どういう話なんだ?」
「道を踏み外した発展は消さないと、っていうこと」
笑顔で恐ろしいことを言う。
見た目は子供だけど、やっぱり天使なのだな、って思う瞬間だった。
「あっ」
ふと、フランが明後日の方向を見る。
その視線を追いかけると、クレープを販売する露店があった。
朝から元気に声を出して商売に励んでいる。
「ねえねえ、お兄ちゃん。あれ、クレープっていうんだよね?」
「もしかして食べたことない?」
「うん。私達天使って、基本的に食事は必要ないからね。でも、必要ないだけで食べられないわけじゃないよ? クレープ……あの料理がアウトなのかセーフなのか、確かめる必要があるね。お兄ちゃんもそう思わない?」
フランはもっともらしいことを言いつつ、チラチラとこちらを見る。
こういう仕草は子供そのものだ。
「わかったよ、奢ってあげる」
「やったー♪」
というわけで、二人分のクレープを買った。
俺は肉がメインのご飯として食べれるもの。
フランはイチゴと生クリームがメインのスイーツ系だ。
「「いただきます」」
二人でベンチに並んで座り、ぱくりと食べる。
「ふわぁ……やばい、ものすごく美味しいよ、これ。自然と笑顔になっちゃう」
「うん。出来立てっていうのもそうだけど、生地がとてもしっかりしているね。具材の旨味をしっかりと引き立てているよ」
「あはは、お兄ちゃん、料理評論家みたい。あむっ」
とても気に入った様子で、フランはぱくぱくと食べ進めていく。
「んー、おいしい♪ このクレープは後世に伝えるべきものだね。お母さんにも報告しておかないと」
「え、こんなことも報告するの?」
「もちろん。お母さんも万能じゃないから、なにもかも知ることはできないからね。私達が手足になって、こういう細かいところを調べていかないと」
蜂のような生態なのかな?
嬢王蜂がいて、働き蜂が動き回る……みたいな。
「クレープ最高!」
天使のことはよくわからない。
神様のことは、もっとよくわからない。
でも……
できるなら、美味しそうにクレープを食べるフランと争いたくはないと思った。
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




