表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

490/547

499話 思わぬ遭遇と笑顔

「……ん……?」


 朝。

 カーテンから差し込む光で、ふと目が覚めた。


 むくりと起き上がり、あくびを一つ。

 ぼんやりとした頭で部屋を見回して……


「やっほー、お兄ちゃん♪」


 フランがいた。




――――――――――




「はぁ……」

「どうしてため息を吐いているの? 疲れているの?」

「君のせいだよ」


 朝起きたら、いきなりフランがいた。

 すわ敵襲か!? と慌てたのは言うまでもない。


 でも、実際はそんなことはない。


「人間の街を案内してほしいな」


 というのが彼女の願いだった。

 そのために、わざわざ俺のところにやってきたという。


 ものすごく心臓に悪いことをしてくれたけど……

 たぶん、彼女に悪気はないのだろう。


 街の案内をしてほしい。

 なら早い方がいいだろう。

 よし、朝一番に頼みに行こう。


 ……なんて思考のようだった。


 最近になって、天使……というか、フランについて少しわかったことがある。

 彼女は天使なので人間の倫理観が通用しない。

 ただ、それを抜きにすれば、他の部分は普通の子供とあまり変わらないのだ。


「へえへえ、ほうほう」

「住宅街はこんなところかな? っていうか、家なんて見て楽しいの?」

「楽しいとか、そういうのが目的じゃないからね。人間がどういう風に生活をしているのか、ちょっと確認をしておきたくて」

「確認?」

「ほら、人間って独自の文化を築いていくでしょ? 進化、っていうのかな。お母さん……神様は昔、人間に知恵を与えた。技術も与えた。それらを足がかりにして、人間は独自の文化と技術を発展させてきた」


 フランは教師のように語る。


「今見てきた家もそう。最初に得た建築技術はもっと拙いもの。でも、人間は独自に進化をして、これだけのものを作る技術と知恵を手に入れた。正常な進化だね」

「そう言うと、異常な進化っていうのがあるように聞こえるけど?」

「あるよ」


 即答だった。

 笑顔のまま、しかし、恐ろしい話をする。


「時に、人間は愚かなことをするからねー。苦心の末に編み出した技術を悪用したり、あるいは、それって正気? って思うような技術を開発するし。お兄ちゃんも心当たりはあるんじゃないかな?」

「……もしかして、魔法とか?」

「正解。ファイアとか、すごく便利だよね。でも、エクスプロージョンなんて大爆発を起こす魔法、使用用途は大量殺人がメインじゃない?」

「そんなことは……」

「うん、そんなことはない。困った魔物とかいるからね。そういうのを相手にするとしたら、エクスプロージョンくらいの威力は必要。だから、グレーゾーンだけど『アリ』っていう判断になった。でも、ちょっと危ない技術なんだよ、魔法って。それと同じで、他にも似た危ない技術はあるんだよねー」

「……結局、どういう話なんだ?」

「道を踏み外した発展は消さないと、っていうこと」


 笑顔で恐ろしいことを言う。

 見た目は子供だけど、やっぱり天使なのだな、って思う瞬間だった。


「あっ」


 ふと、フランが明後日の方向を見る。

 その視線を追いかけると、クレープを販売する露店があった。

 朝から元気に声を出して商売に励んでいる。


「ねえねえ、お兄ちゃん。あれ、クレープっていうんだよね?」

「もしかして食べたことない?」

「うん。私達天使って、基本的に食事は必要ないからね。でも、必要ないだけで食べられないわけじゃないよ? クレープ……あの料理がアウトなのかセーフなのか、確かめる必要があるね。お兄ちゃんもそう思わない?」


 フランはもっともらしいことを言いつつ、チラチラとこちらを見る。

 こういう仕草は子供そのものだ。


「わかったよ、奢ってあげる」

「やったー♪」


 というわけで、二人分のクレープを買った。

 俺は肉がメインのご飯として食べれるもの。

 フランはイチゴと生クリームがメインのスイーツ系だ。


「「いただきます」」


 二人でベンチに並んで座り、ぱくりと食べる。


「ふわぁ……やばい、ものすごく美味しいよ、これ。自然と笑顔になっちゃう」

「うん。出来立てっていうのもそうだけど、生地がとてもしっかりしているね。具材の旨味をしっかりと引き立てているよ」

「あはは、お兄ちゃん、料理評論家みたい。あむっ」


 とても気に入った様子で、フランはぱくぱくと食べ進めていく。


「んー、おいしい♪ このクレープは後世に伝えるべきものだね。お母さんにも報告しておかないと」

「え、こんなことも報告するの?」

「もちろん。お母さんも万能じゃないから、なにもかも知ることはできないからね。私達が手足になって、こういう細かいところを調べていかないと」


 蜂のような生態なのかな?

 嬢王蜂がいて、働き蜂が動き回る……みたいな。


「クレープ最高!」


 天使のことはよくわからない。

 神様のことは、もっとよくわからない。


 でも……


 できるなら、美味しそうにクレープを食べるフランと争いたくはないと思った。

新作始めてみました。

『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』

こちらも読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ