498話 寄り道
次の旅に向けて、色々と準備を進めることに。
天上都市への移動にどれだけの時間がかかるかわからないけど、なにかあった時のために備えて水や食料は必須だ。
それと、野営道具なども。
それらを購入して……
さらに武具を見に行くことに。
「んー……どれもパッとしないわね」
「そう? これなんていい剣だと思うけど」
レティシアとアリスも一緒だ。
店の剣を一つ一つ手に取り、その感触を確かめている。
というか、店主もいるんだからパッとしないとか言わないで。
「ハルはどんな剣がいいと思う?」
「俺は剣を使わないから、良し悪しはわからないよ」
「なによ、魔法で使うでしょ」
「あれはあくまでも魔法で、実際の剣じゃないから……」
「まったく、役に立たないわね」
レティシアはぶつくさと文句を言いつつ、剣選びに戻る。
魔人になったことによる悪影響からは脱しているものの……
基本的に、口が悪いところは直っていない。
むしろ悪化しているような?
「……あまりに気にしないで」
そっと、アリスが耳打ちしてきた。
「……あれ、わかりづらいだろうけど、ハルに構ってもらいたいのよ」
「……え、なにそれ」
「……レティシアも、今までのことがあるから、どう接していいか未だにわかっていないの。だから、ついついツンケンした態度になっちゃうの」
「……そうなのかな?」
「……そうよ。現に、言葉はきついものの、色々とハルに話しかけてくるでしょう?」
言われてみるとそうかもしれない。
無視されることはほとんどないし、言葉はきついものの、一応、会話は成立している。
「ちょっと、そこ。なにを話しているわけ?」
「「なにも」」
「な、なによ、その笑みは?」
「「なにも」」
「……ものすごく気になるわね」
レティシアにジト目を向けられてしまう。
うん。
アリスの言う通りだ。
一度、俺とレティシアの関係は歪んでしまった。
どうしようもないほどに壊れてしまった。
でも、やり直すはことができた。
どうにかこうにか修復することができた。
なら、がんばろう。
また昔のような関係に……いや。
昔以上に仲良くなれるように、がんばっていこう。
「だから、なんでニヤニヤしているのよ!?」
「「なにも」」
――――――――――
「ハルさん、これなんていいと思いませんか?」
「そうだね、買っておこうか」
「はい!」
アンジュと一緒に食料の買い出しに来ていた。
といっても、買うのは保存食がメインだ。
干し肉や干した果物などを探して回る。
ちなみにナインはいない。
「お嬢さまの邪魔をするわけにはいかないので」
という、よくわからない理由で外れた。
なんだろう?
「えっと……これで必要なものはだいたい買ったかな?」
「そうですね……あ、いえ。もう少し見て回りませんか? もしかしたら、もっといいものや安いものがるかもしれませんよ」
「そうかな?」
「そ、そうですよ。ほら、行きましょう」
アンジュの言葉で次の店に向かうのだけど……
これで、予定にない寄り道は四軒目だ。
特に急いでいるわけじゃないから寄り道をしてもいいんだけど……うーん?
アンジュがわざと寄り道をしているような気がする。
「……もうちょっとハルさんと一緒に……」
「アンジュ、どうかした?」
「い、いえ! なにも!」
なんで驚いているんだろう?
「あ、あの……ハルさん!」
「うん?」
「そ、そのですね、えっと……手を……」
「手?」
「手を……」
アンジュは赤くなった顔をこちらに向けて、じっと見て……
「はひゅぅ……」
「アンジュ!?」
なぜか目をぐるぐるとしてしまうアンジュを見て、慌てる俺。
いったい、彼女はなにがしたかったのだろう?
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




