497話 歓送会
「それじゃあ、クラウディアの新しい道がいいものであることを願い……」
「「「かんぱーい!!!」」」
グラスが重なる音が響く。
今日はクラウディアの歓送会だ。
街で一番美味しいという評判の店を貸し切っている。
大きな出費だけど、でも、これくらいはしないとね。
「ふぁー♪ 肉っす、肉たくさんっす!」
「おいしいよ、一緒に食べよ」
「もちろん!」
サナは誰よりも早く肉に食らいついていた。
クラウディアの歓送会ということを忘れていないかな?
でも、クラウディアも一緒においしそうに食べているから、まあ、いいのかな。
「クラウディアがいなくなるなんて寂しいわね……」
「はい、本当です……」
「大丈夫ですわ。これが今生のお別れではありませんし、なにかあれば駆けつけるつもりなので。それと、ハルさまのことを諦めたつもりではないので」
「あわわわ、わ、私は……」
「ふふ、クラウディアらしいわね」
アリスとアンジュは、クラウディアと仲良くお酒を飲んでいた。
三人とも酔い始めているらしく、頬がほんのりと赤い。
ナインはそんな三人にお酒を注いで回っている。
楽しめばいいのに、と思うけど……
でも、ナインからしたらこうするのが当たり前のことなんだろう。
心の底からメイドさんだ。
「レティシア、飲んでいる?」
俺はレティシアの隣に座る。
「……見てわかるでしょ?」
「あまり飲んでないね」
レティシアはちびちびとお酒を飲んでいた。
合間に、ぱくりと焼き鳥を食べている。
「私は……どんな顔をしたらいいのかわからないのよ」
なるほど。
確かにレティシアは、クラウディアと一緒にいた時間は一番短い。
仲間という実感が薄いのかもしれない。
いや。
そもそもの話、レティシアは俺達のことを仲間と思っていないのかもしれない。
ただ、それは彼女の優しさだ。
俺達を巻き込みたくない。
だから、必要以上に距離を詰めない。
そう考えているはずだ。
「なによ、その笑みは?」
「ううん、なんでもないよ。一緒に飲もうか」
「ふん」
言葉はなく、静かにお酒を飲む。
でも、心はとても穏やかだった。
――――――――――
「ハルさまー」
「ハル……」
「えっと……」
歓送会が始り、1時間くらい経った。
クラウディアとシルファは思い切り酔い、そして、左右から俺にしがみついている。
「やっぱり、ハルさまも残りませんか? 一緒に孤児院をやりましょう? ね? ね?」
「シルファが慰めてあげる、よしよし。うふーん」
二人共、妙な方向で絡み酒になっていた。
特にシルファ。
いったい、どこでそんな言葉を覚えてきたんだ……?
「……あはは」
自然と笑みがこぼれる。
楽しい。とても楽しい時間だ。
でも……
この先、ずっと続くことはない。
今だけで終わり。
寂しいけど。
辛いけど。
でも、今は笑顔であるように努力した。
だって、最後はみんなの笑顔を覚えていたいから。
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




