495話 お嬢様、家出する
「アンジュ、どこかな?」
今後について確認していないのは、アンジュとナインとサナだ。
ナインはアンジュの意思を尊重するだろうから、アンジュの意思を確かめればいい。
サナはたぶん、迷うことなくついてきてくれると思う。
そう思ってアンジュを探しているのだけど、なかなか見つからない。
「ハルさま」
ナインを見つけた。
彼女にして珍しく焦っている様子だけど、どうしたんだろう?
「お嬢さまを見かけませんでしたか?」
「アンジュ? ううん、見てないけど……」
むしろ探している途中だ。
「アンジュがどうしたの?」
「実は……家出されました」
「え?」
「お嬢さまが家出をされました」
「えええええぇ!?」
――――――――――
アンジュは、これからも俺と一緒にいるつもりだったらしい。
仲間として支えていく、と。
ものすごく嬉しい話なのだけど……
彼女の父親は反対だったらしく、意見が衝突した。
そろそろ旅は止めて、アーランドに腰を落ち着けてほしい。
そもそも聖女見習いなのだから、そちらを優先するべきだ。
俺が言うのもなんだけど、もっともな意見だ。
それに対してアンジュは……
「お父さまのばかー!」
なんて言い放ち、部屋を飛び出した。
しばらくすれば頭が冷めるだろうと様子を見るのだけど、いつまで経ってもアンジュは表に出て来ない。
部屋にこもったまま。
心配になって様子を見に行くと、いつの間にかアンジュの姿は消えていて、『わからず屋のお父さまとは一緒にいられません』という書き置きがあったという。
――――――――――
「アンジュ、どこー?」
「お嬢さま、出てきてください」
ナインと一緒に街に出て、アンジュを探す。
「どうしてこんなことに……」
「旦那さまの心配する気持ちは当然かと思いますが、お嬢さまの気持ちも考えていただければ、このようなことにはならなかったのですが」
「ナインはアンジュの味方なんだ?」
「お嬢さまのメイドですので」
ふと、ナインの目が柔らかくなる。
「それに……立場を抜きにしても、お嬢さまの味方でありたいと思っています。いつでも、どこでも」
「アンジュのこと、大好きなんだね」
「はい、大好きです」
即答するナインはかっこよく見えた。
「しーーーーしょーーーー!」
「ぐえっ」
突然、空からサナが降ってきた。
思い切り押し潰されてしまう。
「やっと見つけたっす。さあさあ、次の旅はいつ出るっすか?」
「……重い……」
「ガーン!?」
サナも女の子。
重いと言われて傷ついたみたいだけど……
でも、仕方ないよね?
女の子だろうと、成人女性に乗られたら重いから。
「ふぅ……驚いた。どうしていきなり空から降ってきたの?」
「自分の答えを伝えに来たっす」
「そうなんだ……うん、聞かせてくれる?」
だいたい予想はできているけど、それでも、きちんと聞かないといけない。
「ちょっとまってくれる?」とナインに目で合図をして、サナとまっすぐに向き合う。
「自分は、師匠についていくっす!」
「うん」
「師匠は師匠だから、弟子が一緒にいるのは当然っす! でもそれだけじゃなくて、師匠が師匠じゃなくて、師匠は師匠だから、師匠のために……あれ?」
「落ち着いて。はい、深呼吸」
「すーはー……すーはー……」
「どうぞ」
「一言でまとめると、これからも師匠と一緒にいたいっす!」
「ありがとう。俺も、サナと一緒にいたいよ」
「えへへ」
ついつ反射的にサナの頭を撫でた。
サナはにっこり笑顔になり、尻尾がぶんぶんと振られる。
「これはもしかして、デレ期っすか? 師匠、デレデレっすか?」
「サナって、ちょくちょくよくわからないことを言うよね」
「ふへへー、嬉しいっす。あぁ、この嬉しさを誰かにおすそ分けしたいっす……あ、そうだ。アンジュにおすそ分けするっす」
「アンジュを見たの!?」
「へ? あ、はい。さっき、そこの公園に……」
「行こう、ナイン!」
「はい!」
急いで駆け出して……
「師匠!? この流れで自分を置いていかないでほしいっす! やっぱり、師匠はまだまだツンツンっす!」
やっぱり、よくわからないことを言うサナだった。
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
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