493話 クラウディアの決意
翌日。
俺はみんなを集めてフランの話をした。
俺は招待に応じるつもりだけど、内容が内容なので、みんなに無理強いするつもりはない。
仲間だから、というのは一度忘れて。
自分がどうしたいか?
そこを中心に考えてほしい……と。
そんな話をして……
さらに翌日。
クラウディアに大事な話があると呼び出された。
「おまたせ」
オータム家の客間の一室を使わせてもらい、二人だけになる。
……ここ最近、ずっといいように使わせてもらっているな。
アンジュも領主さまも気にしていないみたいだけど、なにかお礼を考えた方がいいかも。
「お忙しい中、申しわけありません、ハルさま」
「大丈夫。考えることはたくさんあるけど、忙しいっていうわけじゃないから」
「ありがとうございます」
天使のこと、魔王のこと、これからのこと。
色々と考えないといけないけど、大事な仲間の話を聞くことはなによりも大事だ。
たぶん。
今までにないくらい、本当に大事な話になると思うから。
「えっと……」
クラウディアは口を開いて、
「……」
すぐに閉じてしまう。
迷っているみたいだ。
催促するようなことはしないで、じっと待つ。
彼女の気持ちがまとまるのを待つ。
そして……
「……申しわけありません。わたくしは、この街に残りたいと思います」
そう言って頭を下げた。
「そっか」
「勘違いなさらないでほしいのですが、怖気づいたとかそういうわけではないのです! わたくしは、なにがあろうとハルさまの力になりたいと思っています」
そこまで話したクラウディアは、「ただ」と間を挟んで、さらに言葉を続ける。
「ハルさまと一緒にいる以上に、やりたいこと……いいえ。やらなくてはいけないことができてしまったのです」
「やらないといけないこと?」
「……孤児院のことです」
魔物になった孤児院の子供達は、どうにかこうにか全員、元に戻すことができた。
ただ、孤児院を運営するアムズは消えた。
これからどうなるのか?
話し合いが行われているらしいけど、まだ答えは出ていない。
「シロちゃんと一緒に過ごして、それから子供達のことを知って……放っておくことはできないと思いました。管理する者がいなくなれば孤児院はなくなってしまう。領主さまなら子供達のその後をきちんと手配してくれると思いますが……しかし、その後は? 新しく親をなくした子供はどうすれば?」
「それは……」
「なので、わたくしがが孤児院を継ごうと思いました」
今回の事件、一番心を痛めているのはクラウディアかもしれない。
クラウディアはシロと一緒に過ごして、幼い心を解きほぐしていた。
孤児院で過ごしていた子供達にも色々と思うところがあるはず。
「わたくしは……!」
「うん、大丈夫。それ以上は言わないでも、わかっているから」
クラウディアは大事な仲間だ。
一緒の時間を過ごしてきて。
強制転移でバラバラになって。
ようやく合流できたけど……
でも、大事な仲間だからこそ、なにかを強制するようなことはしたくない。
「大事なものを見つけたんだよね。俺達のことも大事に思ってくれているけど、でも、それと比べられないくらい大事なものを」
「……大事というか、責任感のようなものですが」
「それでも、大事なものだと思うよ」
行き場をなくした子供達の面倒を見る。
そんな立派なこと、俺には真似できない。
俺ができるのは自分のことくらいだ。
「俺、クラウディアのことを尊敬するよ」
「……ハルさま……」
クラウディアが涙ぐむ。
「正直言うと寂しいよ。引き止めたいと思う。でも、応援したい気持ちもあって……そっちを優先するよ。だから、がんばって」
「わたくしは!」
クラウディアが強く、強く言う。
「離れたとしても、ハルさまの味方です! ずっとずっと味方です! だから、困った時は言ってください。なにかあった時は、必ず駆けつけると約束いたします!」
「うん、ありがとう」
クラウディアは優しい。
その優しさが心に刺さり、ちょっと泣きそうになってしまう。
でも、涙はぐっと我慢した。
別れは寂しくて、辛い。
でも、これは二人の門出だから……
「がんばってね」
笑顔で見送ることにした。
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
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