491話 ごめんね?
夜。
俺は、もう一度バルコニーに出た。
「やっほー、お兄ちゃん」
フランが笑顔で挨拶をする。
アムズと似た気配を感じて、もしかしたら、と思って様子を見に来たんだけど……
本当に的中してしまうなんて。
でも、的中してしまったものは仕方ない。
先制攻撃だ。
俺は魔力を集めて……
「わーっ!? まったまった! まって!?」
フランが思い切り慌てた。
「なんでいきなり魔法を撃とうとしているの!?」
「先制攻撃」
「ちょっと会わない間に、お兄ちゃん、すごーく物騒になってない?」
「それだけのことが起きたからね」
「あー……ごめんね?」
もしかして、フランは戦うつもりがないのかな?
てっきり、アムズを倒した俺を警戒して、とか。
今のうちに、とか。
そんなことを考えていたんだけど、それにしては敵意というものが感じられない。
「天使には独自の情報ネットワークがあってね? それで、ちょっと前にアムズがやらかしていることを知ったんだけど……お兄ちゃんが怒って、警戒するのは当たり前だよね。いや、本当にごめんなさい」
「……戦いに来たわけじゃない?」
「まさか。謝罪と、あと、できれば和解をしたいんだ」
「……話を聞こうか」
「よかった、お兄ちゃんが理知的な人間で」
人間は捨てちゃったけどね。
「言い訳になるけど、私達天使はアムズの行動を容認していないんだ。基本的に、天使ってママ……神様の使いだからね。勝手に動くなんてこと、認められていないんだよ。でも、アムズは勝手に動いて今回の事件を引き起こした」
「フラン達は関わっていない、と?」
「うん。信じてもらうの厳しいなあ、とは思うけど、本当のことだよ?」
嘘を吐いている様子はないけど……
でも気を許すことはできない。
フランとか、真顔で嘘を吐きそうなんだよね。
「勝手をしても、私達天使や神様のためになるなら、まあ、容認されることもあるけど……人間に危害を加えているからね。基本、人間は守るべき対象。私達のためになる、とかよくわからない理由でそんなことをされても、認めることはできないよ」
「他では色々とやっていたのに?」
「あれは必要だから人間を巻き込んだの。えっと……選定だよ。ほら、人間が作物を育てる時、弱い芽を抜いたりするでしょ? それと同じ」
理解したくないけど……
一応、納得はできた。
「前も言ったけど、私達はお兄ちゃんとできれば敵対したくないんだ。むしろ、仲間としてうまくやっていきたいの」
「いけるかな……?」
「今までにない話だけどね。でも、私達も神様も、できるなら戦いは避けたいの。単純に魔王が厄介っていうのもあるけど、それだけじゃなくて、味方になったら心強いからね」
俺が天使の仲間になる。
そのビジョンは、今のところまるで見えてこない。
根本的に価値観が違いすぎるのだ。
その差を埋めない限り、手を取ることはないけど……
でも、フランが言うことも納得はできる。
好き好んで戦うつもりはない。
戦いを避けられるのならそれに越したことはない。
だからこそ、天使や神様のことを理解したいと思ったんだけど……
「そんな時、アムズが暴走しちゃったでしょ? これはまずい! って思って、慌てて謝罪に来たの」
「止めようとは?」
「したんだけどね……でも、ほら。私って殲滅型だから、力加減が難しくて。戦いになったら街を更地にしちゃいそうだから、強硬手段は最後にとっておいたんだ」
「その間に俺達が事件を解決した?」
「そういうこと♪ だから、ごめんなさいだけじゃなくて、ありがとう。おかげですごく助かったよ、お兄ちゃん」
ありがとう、と言われても嬉しくない。
「……わかったよ。完全に信じたわけじゃないけど、ひとまず、その謝罪は受け入れる」
「よかった」
「で……話はそれだけ? 違うよね」
「お兄ちゃんは理解が早くて助かるなあ」
フランは笑顔でうんうんと頷いてみせた。
「今回の事件は完全に私達のせいだけど……それを抜きにしても、お兄ちゃんは私達にすぐに協力することはできない。それは、私達のことを信用していないから」
「そうだね」
「うわ、はっきり肯定されると傷つく……まあ、仕方ないか。私でも、自分のことはちょっと怪しいって思うからね。良いことしか口にしないで勧誘するマルチ商法みたい」
「なんか、やたら人の世界に詳しくない?」
「天使だもん、当たり前だよ」
当たり前なんだ。
「っと、話が逸れた。お兄ちゃんが私達のことを信用しないのは、私達のことを知らないからだと思うんだよね。だから……」
フランが笑顔で手を差し出してくる。
「私達の街に来ない?」




