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489話 大事な話

「……ふぅ」


 戦いが終わり、吐息をこぼした。

 同時に体を染めていた黒いなにかが抜けていくのがわかる。


 魔王の力だ。

 今まで使ってきたような膨大な魔力じゃなくて、魔王を魔王と形成す純粋な力。


 初めてそれに触れたけど……


「すごい大変だな……」


 疲労感でいっぱいで、今にも倒れてしまいそう。

 精神もズタズタで、虚脱感が心を支配していた。

 本当の魔王の力を使った代償だろう。


 あれを自由にコントロールできて、反動も受けないようにしないといけないけど……

 それはいつになるのやら。


「ハル!」


 アリスが駆けてきて、そのまま俺を抱きしめる。


「むぅ!?」

「大丈夫!? 怪我していない!?」

「むぅううう!?」

「よくわからないけど、あいつの攻撃が当たったように見えたけど……」


 大丈夫。

 そう伝えようとして、


「ハルさん!」

「ハルさま!」

「むぅ!!!?」


 アンジュとクラウディアも抱きついてきた。

 アリスの行動を真似するかのように、ぎゅーっとする。

 とにかく、ぎゅーっとする。


「大丈夫ですか!? 治癒魔法を使いましょうか?」

「あんな無茶をされるなんて……見ているこちらの身にもなってください!」


 心配されて、怒られて。

 ちょっと嬉しい。


 でも、これはまずい。

 思い切り抱きしめられているから息ができなくて……


「……ふが……」

「「「あっ!?」」」


 危うく、戦いではないところで昇天してしまいそうになった。




――――――――――




 アーランドを襲った二度目の事件は解決された。


 最後、魔物になってしまった子供達は元に戻すことができた。

 でも、万事よし、というわけにはいかない。


 最初に見た子供は……

 その正体に気づくことができず、元に戻すことができず、倒してしまった。

 ……殺してしまった。


 また、アムズは密かに人体実験を繰り返していた。

 外法に手を染めて。

 子供が死んでしまったら、周囲には里子に出したと言う。

 その繰り返し。


 いったい、いくらの子供が犠牲になったのか?

 調査が進められているものの、まだ全容は明らかになっていない。

 それくらいに闇が深い事件だ。


 元凶は倒した。

 でも、この事件はアーランドに大きな爪痕を残すことになった。




――――――――――




「ふぅ」


 オータム家の領主の執務室。

 そこを後にした俺は、小さな吐息をこぼした。


 アムズの事件を受けて、アンジュの父親を始めとする有力貴族達で会議が行われることになった。

 前代未聞の事件。

 その再発を防ぐためにはどうすればいいか?

 天使という存在を知り、どう動くべきか?


 それについて話し合いが行われて、俺もオブザーバーとして参加することに。

 でも、会議は紛糾。

 徹底抗戦をするべきだ、と過激な意見を主張する人がいれば。

 その一方で、天使と事を構えるなんて罰当たりだ、という人もいる。


 意見はバラバラ。

 このままでは話は平行線ということで、しばし、休憩がとられることになった。


「混乱するのは仕方ないけど、この感じだと、今日中に答えは出ないかも」

「ハル」

「レティシア?」


 ふと、レティシアに声をかけられた。

 会議が終わるのを待っていたみたいだ。


「ちょっといい?」

「うん、大丈夫」

「なら、ちょっと場所を変えましょう。ここは人が多いわ」


 言って、レティシアは一人で歩き出してしまう。

 慌ててその背中を追う。


「綺麗だね」


 やってきたのは屋敷のバルコニーだ。

 街を一望することができて、自然とそんな言葉が出た。


「話っていうのは?」

「……一緒に逃げましょう」

新作始めてみました。

『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』

こちらも読んでいただけると嬉しいです。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 結局最後まで他の天使共は来なかったけど(ʘᗩʘ’) 終わっても後味悪い事件になったな(ب_ب)都市内部でヤリタイ放題、実験してガキが犠牲になったのなんて天使のする事かщ(゜ロ゜щ) そん…
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