476話 圧倒
「私を殺す? まあ、言うだけなら簡単ですね」
俺の宣言を耳にして、アムズは鼻で笑う。
それも当然だろう。
現状、戦いを制しているのはアムズの方だ。
「ハルさん、まずは手当を……!」
「大丈夫、なんともないよ」
「あ、あれ? いつの間に治療を……」
アンジュが戸惑った顔に。
それもそうだろう。
俺もかなりの怪我を負っていたけど、それがなにもないように消えていたのだから。
「みんな、待ってて」
「りょ、了解っす」
「わかりましたわ……」
いつもと違う俺を見て、二人は素直に引き下がってくれた。
一方でアムズは余裕を崩さない。
「ふむ? その様子……もしかしたら、受け継いだ魔王の力を使っているのかな? 暴走はしていないみたいですが、しかし、飲み込まれようとしている。なるほど、なるほど。確かに、それくらいしないと難しいかもしれませんね」
「いくよ」
「そこまでする覚悟はいいでしょう。しかし……」
ヤツの口を黙らせるために前に出る。
体の芯から膨大な魔力があふれてきた。
それらを遠慮することなく、ためらうことなく、迷うことなく……アムズに叩き込む。
黒い霧のようなものが体からあふれた。
それが牙を形作り、アムズに食らいつく。
「甘い」
黒の牙をアムズの糸があらゆる方向から貫いた。
闇雲に攻撃するのではなくて、魔力が流れるポイントを攻めることで、力そのものを消滅させる。
なるほど。
アムズは力だけじゃなくて、確かな戦闘技術を持っていた。
戦闘が得意じゃなくても、伊達に天使は名乗っていないということか。
「以前にも暴走して、悪魔と同士討ちをしたことがあるみたいですが……なるほど。その暴走を意図的に再現して、なおかつ意識を保っていることは素晴らしい。どのような進化を果たしたのか、研究してみたいところですね」
「うるさい」
「ですが、その程度では届かない。天使は、悪魔や魔王を倒すために、長い間、研鑽を積んで知識を蓄えてきたのです」
「黙れ」
「やれやれ……まあ、いい。予定にはないことだけど、君はここで消しておこう。それが一番だ」
「やれるものならやってみろ」
攻撃が通じない。
そして、アムズはありとあらゆる対策を練っていると言う。
でも、まったく焦りはなかった。
理由は簡単。
……今のを本気と思うな?
「さあ、終わりですよ」
アムズが指揮者のように手を振り……
その動きに合わせて、数十……いや、数百の糸が現れた。
獲物を前にした猟犬のように、カチカチと暴力的に震えている。
「相手が出来損ないの魔王だとしても、私は油断はしません。全力全開で葬ってあげましょう」
「それがあんたの全力か?」
「ええ、驚きましたか? やろうと思えば、ここまでの糸を出すことができるのですよ。これだけの攻撃をさばくことはできない。防ぐこともできない。数百を超える『点』の攻撃は、敵を粉々にすることができる」
「すごいな」
「ふむ? あまり慌てていないようですね。ここまでしたのだから、せっかくなので驚いてほしいのですが……まあいい。これで終わりです、さようなら」
アムズがパチンと指を鳴らした。
数百の糸が一斉に解き放たれる。
ありとあらゆる角度から。
空間を埋め尽くすかのように飛んで、食らいついてくる。
俺はそれを……
「……」
なにをするわけでもなく、黙ってみていた。
そして、着弾。
ガッ!
ザザザッ!!!
ギィッ、ガガガガガガガッ!!!!!
全方位から飛来した糸によって、俺の体は文字通り粉々になった。
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




