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474話 VSアムズ・その4

「……やってくれたな」


 驚くべきことにアムズは生きていた。

 結界を破壊して、確かなダメージを与えたはずなのに、まだ二本の足で立っている。


 なんてタフなんだ。

 倒れなくても、普通、もっと弱っていてもいいはずなのに。

 こんな姿を見せられてしまうと、若干、弱気になってしまいそうだ。


「私の邪魔をするだけではなくて、ここまで好き勝手やるとは……!」


 アムズの瞳は怒りに燃えていた。

 若干、口調も荒くなっている。


「死ねっ!」


 殺意を乗せて、アムズが糸を操る。

 五本の糸が一つに束ねられて、槍のように放たれた。


 狙いは……アリスだ。


「アリス!」

「くっ!?」


 アリスは咄嗟に後ろに跳んで回避した。

 しかし、それで安全を確保したわけじゃない。


 アムズが操る糸は生き物のように急な方向転換をして、アリスを追いかける。

 曲がり、跳ねて、落ちて……

 攻撃の軌跡がまったく読めない。


「こっ……のぉ!」


 アリスは顔をこわばらせつつ、剣を振り下ろした。

 ちょうどいいタイミングで糸を捉えることができる。


 ギィンッ!


 甲高い音が響いて、アリスは糸を弾いて攻撃を逸らすことに成功した。

 でも……


「あっ……!?」


 六本目の糸がアリスの腹部を貫いた。


「アリス!!!」

「ちっ」


 レティシアはすぐに動いた。

 自慢の剣でアリスの腹部を貫く糸を切断。

 そのままアリスに肩を貸して、大きく後方に跳ぶ。


「糸が五本だけなんて、誰が言ったかな?」

「アリス、今回復を……」

「させるか!」


 アムズが吠えて、さらに七本目、八本目の糸が飛び出してきた。

 それらは不規則な軌道を描きつつ俺に迫る。

 左右から挟みこむかのような一撃。


 魔法で防御を……いや。


「ファイアボム!」


 防御じゃなくて迎撃を選んだ。

 その選択は正解で、糸の一部を破壊。軌道を逸らすことに成功する。


 狙いがズレた糸は地面に突き刺さり……

 ガッ! という音と共に大きな穴を作る。

 たぶん、糸に微細な振動を与えることで威力を爆発的に高めていたのだろう。

 受け止めようとしたら、魔法の盾ごと貫かれていた可能性が高い。


「師匠!」


 耐えきれないという様子でサナが飛び出してきた。

 ただ、戦闘じゃなくて別の役割を任せたい。


「天然娘、アリスをアンジュ達のところに!」

「誰が天然っすか!?」


 俺の考えを読んだのか、それとも自分で考えたのか。

 俺がそうしようとしていたように、レティシアはアリスをサナに託す。

 サナはもやっとした顔をするものの、今はアリスの回復が優先と判断して、すぐに後ろへ退いた。


「誰も逃さないよ」


 九本目、十本目、十一……どんどん糸の数が増えていく。

 ぜんぜん本気を出していなかった、ということか。


 見立てが甘かった。

 まさか、本当の天使がこれほどの力を持っていたなんて……


 迂闊に攻撃を仕掛けることはできない。

 レティシアに背中を預けて互いをフォローしつつ、様子を探る。


「ハル、なんとかできそう?」

「……ちょっと難しいかも」

「街中だから?」

「それもあるけど、アムズの力の底が見えない」

「確かに」


 応えるレティシアの声は小さい。

 この展開を苦々しく思っているのかもしれない。


 ただ……

 なんだろう、不思議な気持ちだ。

 袂を分かったはずのレティシアに、こうして背中を預ける日が来るなんて。

 一緒に戦うことができるなんて。


 こんな時だけど、少し嬉しい。


「……仕方ないわね」

「レティシア?」

「ハルは切り込んで、どうにかこうにか隙を作って。私がトドメを刺す」

「どうやって……まさか」

「ええ。魔人の力を使う」

「待って、それは……そんなことをしたら」


 レティシアは今は落ち着いている。

 でも、魔人の力を使えば以前のように不安定になってしまうかもしれない。

 それだけじゃなくて、レティシアという人格が消えてしまう可能性も……


「それでもやるしかないでしょ?」

「させないよ」


 刹那。


 三本の糸が地面から飛び出してきて、そのままレティシアの体を貫いた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] しぶといジジイだな(ʘᗩʘ’) しかし珍しく重傷者が出てるけど、ハルが傷つく訳でなくクリスやレティシアが負傷するのはチト不味いぞ(٥↼_↼) 爺のヤラカシで怒ってる所に更に二人が傷つくの…
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