472話 VSアムズ・その2
「ぐっ……!」
アムズは後退しつつ、こちらを睨みつけてきた。
その顔には動揺の色がある。
たぶん、俺のことを大した脅威だとは思っていなかったのだろう。
大人が子供を相手にするような感じで、どうとでもなると思っていたのだろう。
でも、現実は違う。
それは慢心。
あるいは過信。
その隙をついて、思い切り痛い目に遭わせてやった。
どうだ、ざまあみろ。
でも、これで終わりじゃないからな。
お前が食い物にしたシロや子供達は、もっともっと苦しんだ。
悲鳴をあげて涙を流した。
それだけのことをしたのだから、徹底的にやらせてもらう。
「まったく……私としたことが油断しましたね。たかが魔王ごときに、腕を一本、とられてしまうとは」
傷つけられたことで逆に冷静になったらしく、アムズはこちらを侮るのを止めたようだ。
鋭い表情に切り替わり、睨みつけてくる。
ちなみに、切り落とされた腕の断面から血が流れることはない。
肉や骨も見えていない。
マネキンを両断したような感じで、白一色だ。
天使なので、根本的に体の構造が異なっているのかもしれない。
「ここまでしたのだから、もう遊びでは済まされませんよ?」
「こっちは、最初からそのつもりだよ」
睨み合い、
「師匠、やっちゃえっす!」
「ハルさん、がんばってください!」
「シロさんとシルファさん、他の子供達が苦しめられた分を……!」
みんなの応援が飛んできた。
うん。
今まで以上にがんばることができそうだ。
「本当にそのつもりはなかったのですが、こうなった以上、仕方ありませんね。予定にはないことですが、ここであなたには死んでもらいましょう」
「それ、俺の台詞」
「さあ、いきますよ」
アムズは不敵に笑い、その場で残った腕を振る。
どういうことだろう?
アムズは武器を持っていないし、距離も離れている。
その場で腕を振ったとしても当たるわけが……いや。
それに気がついて、俺は急いで魔力を集めた。
「シールド!」
魔法を唱えると同時に、ギィンッ! と甲高い音が響いた。
同時に衝撃が伝わってくる。
魔法の盾になにかが激突したのだけど……
なんだ?
一瞬だけど、なにから閃いたように見えた。
それを危ないと思い、咄嗟に防御をしたのだけど……
「ほう、防ぎますか。なかなかやりますねえ」
「今、なにを?」
「素直に教えるとでも?」
自分で見つけてみせろ。
判断してみせろ。
そう言うかのように笑い、アムズは再び腕を振る。
今度は上から下に。
叩きつけるような動きだ。
その動きと同調するかのように、なにかが閃いて……
「くっ」
今度は横に跳んだ。
直後、さっきまで立っていた場所を不可視の斬撃が襲う。
地面をなにかが駆け抜けて抉る。
五本の細い裂傷が刻まれていた。
「またしても避けるとは……まるで猿のようですね」
「なるほど、ね」
「む?」
「見えない斬撃だと思っていたけど、そういうわけじゃない。ものすごく見えづらいけど、でも、見ることはできる」
「……」
「たぶん、糸だよね? 指に一つずつ。計五本の糸を自由自在に操り、触れたものを切り刻む刃と化している。もちろん、そんなこと普通はできないから、魔力なんかを使って操っている」
「……やれやれ。まさか、たった二回の攻撃で私の手の内を見抜いてしまうとは」
アムズはため息をこぼしつつ、腕を振る。
その動きに合わせてヒュンという音が響いて、再び地面に細い跡が作られた。
暗殺者は対象の首に糸を巻き付けて殺す、という話を聞いたことがあるけど……
アムズの戦い方は、それの強化発展型だろう。
五本の糸をある程度、自由に操ることができる。
たぶん、鞭のように振るっているのだろう。
そして、糸の強度は鋼鉄に勝る。
触れただけで肌が避けて、叩きつけられればスパッと切れてしまうだろう。
なんて厄介な武器を使う。
意思を持つ天使と戦うのはこれが始めてだけど、予想していたよりも強い。
これでも戦闘特化じゃないらしいから、なかなか恐ろしい話だ。
フランやフラメウのような戦闘特化と戦えば、どんなことになるのか?
「まあ、私の場合は、攻撃方法を見抜かれても大して問題はありませんねえ。なにしろ、防ぐことも避けることも難しいのですから」
アムズは余裕の笑みを浮かべつつ、再び腕を振るい、全てを切り裂く糸を飛ばしてくるのだった。




