47話 冗談?
「今、なんて?」
「殺し屋」
「……」
冗談なのだろうか?
でも、シルファの顔は至って真面目だ。
真面目というか、無表情だ。
本当なのかウソなのか、さっぱりわからない。
「えっと……」
どう話を繋げていいか迷っていると、扉をノックする音が。
「ハル、こっちの部屋は……あら。すごくいい感じじゃない」
「えっと……うん、そうだよな」
「私たちの部屋にも窓はあるけど、角度のせいか、湖は見えないのよね。その点、この部屋は完璧ね」
「この景色も、シルファのオススメだよ」
「うんうん、シルファのオススメ、すごいわね」
「うん、すごいよ」
いつの間にか話が流れてしまう。
殺し屋、か。
……まさかね。
――――――――――
宿はひだまり亭に決めた。
部屋が良いだけじゃなくて、料金も安い。
こんなところを教えてくれたシルファに感謝だ。
その後、シルファの案内で宿の外へ。
なんでも、時間を潰すのに最適な遊技場があるらしい。
カードなどの賭け事? と思ったのだけど、そういうわけじゃないらしい。
例えるなら、お祭りの屋台。
そんなものが集合したところがあるという。
宿場街でヒマになる人は、そこそこいるらしく。
そういう人たちをターゲットにされて、作られたらしい。
「ここだよ」
「おぉ」
シルファに案内されたのは、宿場街の外れにある広場だ。
ちょうど、ひだまり亭の反対側になるかな?
この遊技場にある色々な屋台で遊んで、あるいは、近くの観光地などを巡り……
そして夜は、酒を飲むという流れが一般的らしい。
「あれは、競馬。馬を競わせて、どれが一等になるか当てるゲームだよ。あれは、異国のカードゲームやボードゲームを遊べるよ。その奥にあるのは、芸を見せるためのスペース。それから、ナイフを投げて的に当てたり、色々」
「本当に色々あるんだなあ」
「時間はあるし、みんなで見て回りましょうか」
「はいっ、賛成っす!」
「そうですね。こういう遊びはしたことがないから、ちょっと楽しみです」
「お嬢さま、財を溶かすほどにのめり込まないように注意してください」
みんな楽しそうにしていた。
思えば、アンジュとナインと出会ってから、遊ぶ時間なんてまるでなかった。
こういう時間はとても大事なんだなあ、と今更ながらに実感する。
「シルファのオススメ、ってなにかある?」
「泣かせ! 木人君、かな」
「……なに、そのおかしな名前は?」
「そういう名前の遊戯があるの。ほら、あれ」
シルファが指差す先に、ちょっとした広場が。
中央に、武技や魔法を使う時に使用される、訓練用の木人が設置されている。
客と思わしき人が武技を放つのが見えた。
すると、木人の上にピコンと数字が表示される。
「あれは?」
「武技、魔法のダメージを数値化して、測定してくれる。特定のポイント以上を稼いだら、景品がもらえるっていう遊戯だよ」
「へえ、おもしろそうだな」
「ハルはダメよ」
「ハルさまはダメです」
アリスとナインに真顔でストップをかけられてしまう。
「え、なんで?」
「ハルがやったら、計測不能とかになりそうだもの。下手したら、インチキした、って言われるかもしれないわ」
「というか、あの木人を壊してしまうのではないでしょうか? そのようなことになれば、損害賠償を負わなければいけなくなります」
「木人はとても頑丈だよ? 上級魔法にも耐えられるみたいだよ?」
シルファがそう指摘するものの、二人は考えを変えない。
「上級魔法程度、だとねえ……」
「せめて、古代魔法でないと……」
「とても心配ですね……」
アンジュも、いつの間にか会話に参加していた。
みんな、心配しすぎな気がするんだけど……
ここまで全力で止められてしまうと、それを振り切って無理矢理に、ということは難しそうだ。
ちょっと楽しそうだったんだけど、諦めることにしよう。
「自分、やるっす!」
「サナも禁止よ」
「えぇ!? なんでっすか!?」
「ドラゴンのサナが挑戦しても、ハルと同じように、とんでもないことになるでしょ」
「うぅ……自分、ドラゴンであることが悲しいっす……」
サナは俺以上にがっかりしていた。
人に憧れているみたいだから、こういう遊戯には興味があったんだろうな。
ちょっとかわいそうなので、あとで、別の遊戯に連れて行こう。
「とりあえず、あたしとアンジュで挑戦してみましょうか」
『泣かせ! 木人君』のある広場へ移動して、アリスとアンジュが参加料を支払う。
アリスは木剣を、アンジュは木の杖を、それぞれ構える。
「それじゃあいくわよ、ダブルスラッシュッ!」
「いきます、セイクリッドブレスッ!」
アリスの武技が『68』。
アンジュの回復魔法が『244』という数字を叩き出した。
ちなみに、数値の上限は『999』。
賞品をもらえるのは『300』以上らしく……
「うぅ……あたしってば、かなり雑魚っぽい数値を……」
「まだまだ、真の聖女には遠いですね……巡礼をがんばらないといけないです……」
二人はがっくりと落ち込むのだった。
「そうだ、シルファもやってみたら? 料金は俺が払うからさ」
「いいの?」
「せっかくだから。お祭り気分で、楽しんでもいいと思うよ」
「じゃあ、遠慮なく」
追加料金を払い、シルファの参加が決定。
彼女はなにも持たず、木人の前に立ち、拳を腰だめに構えた。
拳技を使うのだろうか?
「ふぅ……破壊拳っ!」
文字通り、全てを破壊するような強烈な一撃が木人に炸裂した。
ビシッと、かなり頑丈に作られているという木人にヒビが入る。
その威力は……『556』。
「うん、なかなかだね」
「「「……」」」
しれっとした顔でそんなことを言うシルファに、俺たち一同、目を丸くしてしまう。
殺し屋と言っていたけど……もしかすると、もしかするのだろうか?
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