467話 これはなに?
「……これは、なに?」
戦場と化した街の中、シルファは呆然としていた。
少し離れたところで魔物が暴れている。
でも、シルファは知っている。
その魔物は、元は子供だということを。
「なんで……」
普段、滅多なことで表情を変えないシルファもさすがに動揺を隠せない。
どうしてこんなことに?
疑問で頭が埋め尽くされてしまい、次に取るべき行動を見失ってしまう。
なぜ?
なぜ?
なぜ?
最初、アムズから街中で魔物が現れたという話を聞いた。
兵士達が対処に当たっているものの、もしかしたらガーデンにやってくるかもしれない。
なので、いざという時に備えて、お昼寝をしている子供達を起こして地下に避難させてほしい、と……そう頼まれた。
なるほど。
いざという時の備えは大事だ。
納得したシルファは子供達を起こして、むずがる子供達をなだめて、どうにかこうにか地下に誘導した。
ただ……
避難所として使われているはずの地下室は異様な光景だった。
床に幾重にも魔法陣が刻まれていた。
壁にかけられたランプからは妙な匂いがする。
シルファは知らないが、魔力が込められた香だ。
そして、天井に埋め込まれた水晶。
魔力を帯びたもので、そこにいるだけで人体に影響を与えてしまうような強いものだ。
これが地下の避難所?
ここにいると安全?
より悪化しそうな気がしたのだけど、しかし、シルファは地下室が『正しい』のか『異常』なのか判断することができない。
それだけの知識がない。
どうするべきか迷い、考えて……
しかし、そのせいで手遅れになってしまう。
連れてきた子供が苦しみ出した。
苦悶の表情を浮かべて、胸をかきむしるようにして床を転がる。
一人、また一人と子供達が倒れていく。
シルファは慌ててポーションなどを飲ませて介護をするが、何も変わらない。
子供達は苦しんで……
そして、魔物と化した。
地下室から飛び出して、孤児院から出て、街中で暴れる。
シルファは慌てて追いかけたものの、どうしていいかわからない。
魔物を倒す?
いや、あれは子供なのだ。
信じられない話だけど、確かにこの目で見た。
なら、どうすれば……?
「あ、う……これは……なに?」
そして今に至る。
シルファは完全に混乱してしまい、足を止めていた。
どうすればいいかわからなくて、ただただ立ち尽くすことしかできない。
「素晴らしい」
気がつけばアムズが隣にいた。
シルファは救いを求めるような視線を送るが、彼は笑っていた。
目の前で繰り広げられる惨劇を見て、満足そうに笑っていた。
「なかなかの成果ですね。いずれの個体もなかなか強力だ。子供でこれなのだから、素体を大人にすれば……いや、冒険者などの強者にする? ふむ。それならば、さらに強力な個体を作ることができるでしょう。そのために……」
アムズがシルファを見る。
「君も魔物にしてしまいたかったのですが、こちらは失敗してしまったみたいですね。さすがに、日が浅い感じでしたか」
「……あなたがこれを?」
アムズが全ての元凶だというのか。
子供達を魔物に変えたというのか。
だとしたら許せない。
シルファは拳を構えるものの……
「っ!? 動けな……」
拳を構えたところで一歩も動けなくなった。
自分の体が自分のものではないようだ。
指先一つ、動かすことができない。
「逆らうことは不可能ですよ。魔物にすることはできなかったものの、ある程度の仕込みはしていましたからね。あなたはもはや、私の人形です」
「あなた、は……」
「改めて自己紹介をしておきましょう」
アムズはにっこりと笑い、軽く頭を下げた。
「私の名前は、アムズ。第五世代型管理天使だ」




