表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

466/547

465話 惨劇の始まり

 強硬手段と取ると決めたものの、無策で突撃するわけにはいかない。


 強制調査の対象は、アムズが運営する孤児院『ガーデン』だ。

 彼の庭なので、どんな罠があるかわからない。


 また、子供達も問題だ。

 いざという時、人質に取られてしまうかもしれない。


 それらを回避するために、迅速かつ効果的な奇襲が必須だ。

 そのための方法を話し合っていたのだけど……


「し、失礼します!」


 突然、扉が大きな音を立てて開いた。

 慌てた様子の兵士が入ってくる。


 ナインが眉をわずかに動かす。


「なんですか、騒々しい」

「も、申しわけありません。しかし、緊急事態でして……」


 ……嫌な予感がした。


「突如として、街中に魔物が現れました!」

「「「!?」」」


 最悪の報告がもたらされた。




――――――――――




「これは……」


 報告を受けて、俺達は急いで屋敷の最上階へ移動した。

 そして街全体を見渡す。


 なにをするにしても、まずは現状を把握したい。

 この目で街の状況を見たい、とそう思ったのだ。


 街のあちらこちらで火の手があがっていた。

 悲鳴も聞こえてくる。


「状況はどうなっているんですか!?」

「それが、その……至るところで、突如、魔物が出現して。幸いなことに、まだ大した被害は出ていないのですが、民の動揺、混乱が激しく……そちらの方が厄介かもしれません」

「……それは、どんな魔物ですか?」

「さほど強い個体ではなくて、かといって弱い個体でもなく……ああ、それと、少し小柄なように思えました」


 まさか。

 まさか、まさか、まさか。


「現在、討伐のために緊急出撃を……」

「ダメです!」

「え?」

「討伐はしないでください。捕獲……それが難しいなら、その場で動けなくするようにしてください!」

「え、いや、しかし……」


 なにを言っているんだ?

 という目を向けられてしまう。


 でも、これは譲れない。


「詳細な説明は省きますけど、その魔物は、子供が強制的に変化させられたかもしれないんです」

「なっ……!? そ、そんなことが……」

「俺なら元に戻すことができます! だから、討伐は……!!!」


 無茶を言っているという自覚はある。

 兵士達を危険に晒す。

 その責任を取ることなんてできない。


 でも。

 それでも。


 これ以上、子供達を殺すなんてことは……!


「わかりました」


 とんでもないお願いをされているにも関わらず、兵士は凛々しい顔で頷いた。


「強い力を持つ個体ならば、無理ですと断っていましたが……幸いというべきか、捕獲、制圧が可能であると判断します。なんとか動きを止めてみせましょう」

「……ごめんなさい」

「他ならぬ、あなたの言うことです。かつて受けた恩を返すべきが来たのでしょう」

「え」

「覚えていないのも仕方ないですね。かつて、アーランドで起きたアンジュ様の偽物の事件の時、私はあなた様のご活躍をこの目で見ていましたから」


 兵士が笑う。

 彼の顔に見覚えはないのだけど……

 でも、彼は俺のことを覚えてくれていたみたいだ。


 嬉しくて涙が出そうになる。


「すぐに他の者に今の話を伝えて、そして、魔物を捕獲します」

「……気をつけてください。すぐに、俺達も追いかけます」


 兵士を見送り、それから今後の方針を考える。


「ハルさま、どうされるのですか?」

「確かに、ハルさんなら魔物を元に戻すことができるかもしれませんが……」


 みんなの言いたいことはわかる。

 シロの時、思い切り苦戦したのだ。

 それを何回も繰り返さないといけないとなると、わりと絶望的かもしれない。


 でも、諦めたくない。

 やる前から子供達を切り捨てたくない。


「でも、それでこそハルかもね」

「……アリス……」

「あたしはハルを信じる。そして、応援する。みんなは?」


 アリスがみんなに問いかける。

 みんなはなにも答えない。

 ただ、やる気たっぷりの笑顔を浮かべていた。


 それが答えだ。


「みんな……ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 奴も強攻策で攻めて来たか(ʘᗩʘ’) 1体1体解呪してたら逃げられるかもしれんし纏めて一気は流石に無理か?(٥↼_↼)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ