463話 おかえり
あれからシロを客室に戻して、ベッドに寝かせた。
それから治癒師などを呼んで、徹底的に検査をした。
衰弱してて、しばらくはベッドから離れられそうにない。
ただ、幸いにも問題はそれだけ。
致命的な問題があるわけじゃない。
しばらく休めば元気になるということで安心した。
魔物になったこと。
色々と聞きたいことはあるものの……
今はゆっくり休んでほしい。
「……むにゃ……」
穏やかに眠るシロ。
その頭をそっと撫でてから、俺は部屋を後にした。
――――――――――
ガーデンに滞在するシルファは子供達の面倒を見ていたが、その顔はげっそりとしていた。
常に無表情の彼女にしては珍しい。
しかし、それも仕方ない。
「お姉ちゃん、次はなにをして遊ぶ?」
「おトイレ……」
「ねえねえ、おやつ食べたい。おやつ」
子供達がわらわらと群がる。
一人一人まったく別のことを口にしてて、しかも同時に言葉にするものだから、なにを言いたいのかさっぱりわからない。
シルファはどうしていいかわからなくて、呆然とするだけだ。
「子供……難しい」
なんだかんだ根は真面目なシルファは、わからないなりに子供達の相手をする。
肩車をして、トイレに連れて行って、おにぎりを作る。
それからお昼寝をする部屋に誘導して、どうにかこうにか寝かせて……
「……疲れた……」
ようやく落ち着きを手に入れた頃は、シルファはげっそりした様子だった。
疲れた。
もう指一本動かしたくない。
子供達と同じように寝たい。
「?」
ふと、妙な殺気を感じた。
「遠い……これは魔物?」
遠くから、しかし、街中から魔物の気配を感じる。
強敵というほどではないが、妙に心がざわざわする気配だった。
これが初めてではない。
少し前……というか、散発的に魔物の気配を感じていた。
いずれも小さなものなので、さほど気にしなかったのだけど……
「よくよく考えたらおかしい?」
ここは城塞都市。
よほどのことがない限り、魔物が街に侵入するなんてありえない。
頻発するなんて尚更ありえない。
「なにかが起きている?」
それと、わずかではあるが懐かしい匂いがした。
ふわっとして、優しく温かい匂い。
ハルの匂いだ。
ハルがこの街にいるのなら、ここに用はない。
すぐに出て探しに行くだけ。
……でも。
「むぅ」
すやすやと眠る子供の一人がシルファの服を掴んでいた。
離そうとするものの、しっかりと掴んでいて難しい。
起こしてしまうか?
いや、それは可愛そうだ。
でも、これでは動けない。
「困った」
なんてことを言いつつも、シルファはどこか嬉しそうだった。
心なしか子供達を見る顔は優しい。
シルファは野良猫のように気まぐれな少女だ。
でも、だからこそ仲間意識は強い。
行き場のない子供達に自分の姿を重ねて見てしまう。
もう少し様子を見ていたい、なんて思う。
「ただいま」
表から声が聞こえてきた。
アムズが帰ってきたのだろう。
ややあって、アムズが顔を見せる。
「おや。子供達はお昼寝中なのですね」
「うん。よく寝てる」
「子供達の面倒を見ていただき、ありがとうございます」
「構わない。シルファも……楽しい」
「そうですか、それはよかった」
シルファは話をする間も子供達を見ていた。
優しい表情で、母のように見守っている。
だから、気づくことができなかった。
アムズの顔にちらりと浮かんだ邪な感情に。
「ところで……一つ、お願いがあるのですがいいですか?」




