462話 ただいま
「……っ……」
やや乱暴ではあったものの、黒い魔物の中に強引に魔力を叩き込んだ。
シロを魔物とする呪い。
それを強引に解除する。
その反動だろうか?
黒い魔物はびくんと震えて動きが止まる。
「やったのですか……?」
「クラウディア、それ、ダメなフラグっす」
「え? え?」
こんな時でもマイペースなサナがうらやましい。
でも、そんな彼女のおかげでいくらか緊張が解けた。
やれることはやった。
後は結果を信じて待つだけだ。
「……ぅ……ぁ……」
黒い魔物の足が震える。
ともすれば倒れてしまいそうな様子で、ふらふらとよろけて……
そして、壁によりかかる。
「あぅ……ウアアアアアアアア!!!」
悲鳴に似た叫び声。
同時に黒い魔物から霧があふれた。
墨をぶちまけたかのような黒い霧。
それは強烈な風と共に周囲に撒き散らされて、一気にこちらの視界を奪う。
攻撃?
いや、敵意は感じない。
殺気も感じない。
無の境地で攻撃をしかけてきた、という可能性もあるのだけど……
さすがにそれはないだろう。
今までの行動を見る限り、そんなことができるとは思えない。
大丈夫。
様子を見ていいはずだ。
そう自分に言い聞かせて、黒い魔物がいた方を見る。
霧の発生源を見る。
そして……
「……」
霧が晴れた。
黒い魔物は消えて……シロが残る。
気を失っている様子で、ふらりと倒れてしまいそうになる。
「シロ!」
慌てて駆け寄り、その体を支えた。
軽い。
小さい。
でも……
「ハルさま、シロちゃんは……」
「うん、大丈夫」
触れた体は温かくて。
胸元に耳を近づけると心音が聞こえてきた。
「ちゃんと生きているよ」
「っ……!」
クラウディアは涙目になって。
立っていられない様子で、その場に膝をついて。
「よかったですわ……本当に、よかった……」
心底安堵した様子で言う。
他のみんなもちょっと涙目になっていた。
涙目ではあるものの、その顔に浮かんでいる感情は悲しみではなくて喜びだ。
よかった。
悲しみに染めることがなくて、本当によかった。
「……んぅ……」
シロが身じろぎをした。
「シロ?」
そっと呼びかける。
見た目はなんともないけれど、見えないところが酷いことになっているかもしれない。
あるいは心が壊れているかもしれない。
魔物になるなんて見たことも聞いたこともないから、どんな後遺症があってもおかしくない。
だから、ものすごく緊張していたのだけど……
「ふぁ……ハルだ……」
「うん、俺だよ。痛いとか苦しいとか、そういうのは大丈夫?」
「え? えっと……」
記憶が曖昧なのかもしれない。
シロは、「なんでそんなことを聞くの?」と不思議そうな顔をしつつ、ぺたぺたと自分の体を触り確認をする。
「大丈夫」
「本当に?」
「あっ、まって」
「な、なにか問題が……?」
「お腹が減った。なにかちょうだい」
とても『らしい』言葉に、
「あははっ」
一気に緊張が解けて、ついつい笑ってしまうのだった。




