46話 食い逃げ少女のお礼
「ありがと」
彼女の代金を俺たちが持つということで話がまとまる。
それと同時に席が空いたため、店の端の方にあるテーブルへ。
彼女も一緒に席につくと、ぺこりと頭を下げた。
「助かったよ。お礼、したいな」
「気にしなくていいよ」
「ううん、気にするよ。お礼、するの」
女の子は、頑なにお礼をすると言う。
食事代も踏み倒そうとしていたわけでじゃなくて、あくまでも他の方法で補填をすると言っていたし、それなりに頑固なのかもしれない。
「あっ、そうです」
閃いたという様子で、アンジュが口を開く。
「えっと……」
「シルファは、シルファだよ」
「シルファさんですね? シルファさんは、この宿場街に来て、どれくらいですか?」
「一週間かな」
「ずいぶん長いですね。同じ馬車に姿が見えなかったから、それなりと思っていましたけど……と、話が逸れました。そういうことなら、この宿場街にそれなりに詳しいですよね?」
「うん、そうだね」
「なら、この後、宿場街を案内してくれませんか? オススメのお店とかオススメの宿とか、そういうことを教えてほしいです。それをお礼とする、ということでどうですか?」
「いいの?」
シルファがこちらを見た。
そんな簡単で単純なことでいいの? というような感じだ。
それに対して、俺はコクリと頷く。
「俺たちが利用してる馬車、出発が二日後なんだ。だから宿をとらないといけないし、あるのなら暇つぶしができるところを知りたいし……そういうところを教えてくれると、すごく助かるよ」
「……うん、いいよ。そういうことなら、案内するよ」
シルファの中で折り合いがついたらしく、こちらの提案を受け入れてくれた。
「じゃあ、少しの間よろしく。俺は、ハル・トレイターだ」
「あたしは、アリス・スプライトよ」
「アンジュ・オータムです」
「アンジュさまのメイドの、ナイン・シンフォニアです」
「サナっす!」
「シルファ・クロウブラストだよ。よろしくね」
自己紹介を交わして……
そのままシルファを交えて、食事会を開くことに。
シルファは二度目の食事のはずなのだけど、それなりの量を食べていた。
胃が大きいのかな?
――――――――――
シルファオススメの料理を食べた後、宿を探すことに。
こちらも、シルファのオススメを紹介されるのだけど……
「ここ、シルファのオススメだよ」
「……ここが?」
シルファが案内してくれたのは、宿場街の一番端にある宿だ。
外観はほどほどに汚れていて、年季を感じさせる。
それと、かなり小さい。
普通の宿の半分くらいのサイズ。
部屋数、足りるのかな……?
「えっと……ねえ、シルファ。あたしたち、オススメを教えてほしい、って頼んだんだけど……」
「うん。だから、ここに連れてきた。この『ひだまり亭』は、シルファのオススメ。シルファもここを利用している」
「そうなの?」
「ここは快適だよ。部屋も、人数分、ちょうど余っているよ。たぶん」
みんなで顔を見合わせる。
一様に、どうする? というような顔をしていた。
独特の雰囲気を持つ子だから……
もしかしたら、宿を選ぶセンスも独特なのかもしれない。
「……まあ、いいか」
中に入らないうちから、ああだこうだ言っても仕方ない。
それに、案内してくれたシルファに失礼だ。
とりあえず、中に入ろう。
そんなところでみんなの意見が一致して、俺たちは扉をくぐる。
「いらっしゃいませー!」
明るく元気な声が響いた。
三編みの12歳くらいの女の子が、にこにこと笑顔を見せている。
「お客さまでしょうか!? お客さまですよね!?」
「え? あ、うん……一応?」
「わーい、やったー! お客さまです、シルファお姉ちゃんに続いて、久しぶりのお客さまです!」
久しぶりとか、不穏な言葉が……
「五人なんだけど、空いてるかな?」
「はい! 大丈夫ですよー。一人一部屋にしますか? それとは別に、二人部屋、三人部屋も空いてますよ」
「私はお嬢さまと一緒の部屋がよろしいのですが」
「それなら、自分は師匠と一緒がいいっす!」
「はいはい、サナはあたしと一緒ね」
「なんでっすかー!?」
「えっと……それじゃあ、一人部屋一つと、二人部屋を二つで」
「はい、わかりましたー。では、お部屋にご案内しますね」
女の子に案内されて、二階にある部屋へ。
俺は小さな一人部屋、他のみんなは二人部屋に。
「へぇ」
思っていた以上に、部屋は綺麗で広い。
しかも、机やテーブルなどが備え付けられている。
「おまけに……景色もいいなあ」
窓の外から綺麗に澄んだ湖と、新緑の森が見える。
「値段はかなり安かったし……なるほど。確かに、ここはオススメだなあ」
「ハル」
扉が開いて、シルファが姿を見せた。
俺の様子を見に来たみたいだ。
「この宿、どうかな?」
「うん、いいよ。っていうか、ごめん」
「なんで謝るの?」
「実は、ちょっと微妙かなー、って最初は思ってて……でも、そんなことはなかったから。シルファのオススメの宿、すごくいいよ」
「そう、よかった。ハルが喜んでくれるのなら、シルファもうれしい」
うれしい、なんてことを言いながらも、シルファは無表情のままだ。
この子、無表情以外の顔を見たことがないんだけど……感情が表に出にくい子なのだろうか?
それとも、なにかしら事情があるのか。
どちらにしても、気軽に尋ねられることじゃないか。
他の大したことない話題なら問題ないかな?
「ところで、シルファはなにをしているんだ?」
「なに、って?」
「ああ、仕事のことだよ」
「なるほど、仕事」
「ちなみに、俺は冒険者。シルファは?」
「シルファは、殺し屋だよ」
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




