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457話 抱きしめて

「……」


 シロは警戒した様子でクラウディアを見る。


 いや。

 警戒しているというよりは怯えているかのようだった。


 クラウディアは、なぜ自分に優しくするのか?

 なぜ、自分のことをちゃんと見てくれているのか?

 それが理解できず、訳がわからなくて、混乱してしまう。


 そんなシロを見て、クラウディアは昔の自分を見ているような気持ちになる。


 クラウディアはシロの過去を知らない。

 ただ、野良猫のように他人を警戒するところを見ていると、自分を重ねてしまうのだ。

 家族にもののように扱われていた頃の自分と似ていると、そう思ってしまうのだ。


 だから、


「大丈夫ですわ」

「……あ……」


 気がつけば、クラウディアはシロを抱きしめていた。


 ガラス細工を扱うように、優しく優しく……

 そして温もりを伝えるように、しっかりと抱きしめる。


「な、なにを……」

「わたくしは敵ではありません」

「そんな……こと」

「信じられませんか?」


 シロは小さく頷いた。


 でも、クラウディアから逃げようとしない。

 信じられないけど、抱きしめてほしい。

 抱きしめてほしいけど、信じられない。


 そんな矛盾した感情を抱いている様子で、どうしていいかわからないみたいだ。


 クラウディアはにっこりと笑い、優しく語りかける。


「信じなくていいですよ」

「え」

「わたくしがなにを考えているか、わかりませんからね。ひょっとしたら甘い言葉をささやく裏で、とんでもないことを企んでいるかもしれません」

「それは……」

「だから、信じなくてかまいません。ただ……」


 クラウディアは、そっとシロの頬に触れた。

 そのまま優しく撫でる。


「傍にいさせてくれませんか?」

「傍……に?」

「シロさんの気持ちはわかるつもりなので。だから、わたくしは信じてもらえるようにがんばりたいと思います」

「……」


 シロはなにも応えない。

 ただ、話の続きを聞きたいと、クラウディアをまっすぐに見る。


「わたくしのことを見てください。観察してください。それで、いつか信じてくれると嬉しいです」

「……どうして」

「はい」

「どうして、そこまでするの……? 別に、私に信じてもらえたからって、なにか得があるわけじゃないのに……」

「得ならありますよ」

「どんな?」

「シロさんの笑顔が見られるかもしれません」

「……」


 思わぬ答えだったらしく、シロは目を大きくして驚いた。


「そんな……ことで?」

「そんなことではありませんよ。とても素敵なことです」

「でも、私なんて……」

「あまり自分を卑下しないでください。私にとって、シロさんはとても素敵な方で、大事な方ですよ」

「……」

「もっと簡単に言うと、友達になりたいんです」

「私……と?」

「はい。シロさんは嫌ですか?」

「そんな、ことは……でも、でも……私は! 友達にしてもらえるような、そんな素敵な人間じゃないから……」

「そんなこと、勝手に決めたらダメですよ。寂しいではありませんか」


 クラウディアは笑顔を保っているものの、その心は泣きそうになっていた。


 こんなに幼い子供が自分で自分の存在価値を否定する。

 いったい、なにがあればそんな風になってしまうのか?

 どうしてここまで歪んでしまったのか?


 怒りを覚えて……

 それ以上に、強い悲しみを覚える。


 優しくするのは同情なのかもしれない。

 それでも、今、この子を一人にするべきではないと感じていた。


「どうですか? わたくしと友達になっていただけませんか?」

「私、は……」


 シロは迷うように視線を揺らして……


「うっ……あぁ!?」


 不意にその体がビクンと震えた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 時間があれば少しずつ紐解けるだろうが(ʘᗩʘ’) あのジジイが助けに動かんのも恐らく(٥↼_↼)
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