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456話 シロの過去

 シロ・ニヤルケル。


 人形のように愛らしい容姿は両親から受け継いだものだ。

 絹のようにサラサラの髪も両親が与えてくれた。

 鈴が鳴るような声も両親にもらったもの。


 ただ……


 それ以外のものをシロはもらっていない。

 受けていない。


 彼女の両親は子供に興味を持っていない。

 欠片も気にすることはない。


 家の都合で決められた政略結婚。

 その中で、仕方なく作った子供。

 故に、愛を注ぐことはない。

 本当に愛するのは、それぞれの浮気相手とその子供だけだ。


 シロを育てるためのお金は出したものの、家に帰ることはない。

 愛情を注がないだけではなくて、顔の一つを見せることもない。


 だからシロは親の顔を知らない。


 知りたい。

 会いたい。

 声を聞きたい。

 抱きしめてほしい。

 頭を撫でてほしい。


 そんなことを思うものの、それが叶うことはない。

 なにしろ両親の顔も知らないのだ。

 例え両親がやってきたとしても、両親と気づくことはできない。


 そんなシロの育ての親は雇われのメイドだ。

 シロの生活をサポートするため、彼女の両親が雇い、屋敷に置いたのだけど……


 しかし、メイド達は人格に問題があった。


 シロはおとなしく、なにをされても我慢してしまう性格だ。

 両親は彼女を放置していて、頼りにできるような友達も大人もいない。


 そんな彼女を見て……

 メイド達はシロを虐待するようになった。


 雨が降ったからイライラしていた。

 旦那とケンカをした。

 犬に吠えられた。


 そんなどうでもいい鬱憤を解消するために、シロを生贄として選んだのだ。


 愛らしい貴族の少女。

 本来ならひれ伏すことしかできないけれど、しかし、なにをしてもいい。

 反抗されることはなくて、バレて咎められることもない。


 メイド達は陰湿に、執拗なまでにシロを攻撃した。

 ニヤニヤと笑いながら、楽しそうにシロを虐待した。


 シロはなにもできない。

 耐えるしかない。

 こうしていれば、いつか両親が助けに来てくれる……と信じて。


 しかし現実は残酷だ。

 両親が助けに来るということはない。

 メイドに虐待される日々が続いて……

 それがきっかけで体調を大きく崩して、死の淵をさまようことになった。


 その事件がきっかけとなり、シロはアムズに保護された。

 アムズは孤児だけではなくて、シロのような子供を救う活動もしていたのだ。


 ガーデンでは快適に過ごすことができた。

 痛いことをする大人はいない。

 仲間と呼べる子供がたくさんいる。


 ただ……


 やはりというべきか、大人はなにもしてくれない。

 アムズは優しい。

 メイドと違い手をあげることはない。

 毎日、きちんと食事を用意してくれる。


 でも、それだけ。


 日々の生活の面倒は見てくれるものの、それ以上のことをしてくれることはない。

 愛情を示してくれることはない。


 誰も気にしてくれない。

 シロを見てくれない。

 それは結局、生きていないのと同じではないか?

 誰にも必要とされていないのなら、ここに存在する意味なんてないのではないか?


「私……なんでここにいるんだろう?」


 誰か教えて。

 シロは、心の中でずっと叫び続けていた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 在るはずの物が無く、無いままに虐げられ、行き着いても結局、何も無くか(ʘᗩʘ’) ならば教えよう、見せよう、世界はもっと広く暖かく美しい物だと(◡ω◡)
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