455話 失敗を重ねて
ハルとアリスが唖然とする一方……
少し離れたところで、二人を見る人影があった。
「ふむ、あっさりとやられましたか」
その人影はアムズだった。
そして、塵となって消えた子供はガーデンの子だ。
それでも顔色を変えることなく。
ただただ、淡々とした表情で現場を見る。
「あっさりとやられたものの……魔物への変化は問題なく行われましたね。あとは、もう少し任意の時間に設定できるようになれば……」
アムズはぶつぶつとつぶやきつつ、考えるような仕草を取る。
「強さに関しては……やはり、素体となる子供に問題がある? 子供だから大した力を持たない魔物に? しかし、大人となると薬に対する抵抗が……たぶん、うまくいかないでしょうね。やはり、子供が一番。そうなると、力を持つ子供を素材にした方が……」
その口からこぼれる言葉はおぞましいものだった。
少し事情を知る者が聞けば、彼が全ての元凶であることがわかる。
そして、非人道的な実験を行っているであろうことも推測できる。
ただ……
今はまだ、誰も知らない。
誰も気づかない。
――――――――――
シロ・ニヤルケルは困惑していた。
「はい、どうぞ」
「むぅ……」
クラウディアがいつものようにクッキーを差し出してきた。
クッキーはおいしいから好きだ。
しかし、クラウディアは信用ならない。
先生が敵と言っていた人の仲間。
今は優しい顔をしているものの、いつ酷いことをするか。
そう警戒しているのだけど……
しかし、いつになっても酷いことをしてこない。
その気配が欠片もない。
「食べないのですか?」
「……食べる!」
シロは、さっとネコのようにクッキーをかすめとり、パクパクと食べた。
クッキーはおいしいから仕方ない。
それに、食べないで無駄にしてしまうのはもったいない。
だから食べるのは問題ない。
そんなことを考えて、敵からクッキーをもらう自分の行動を正当化していた。
ただ、シロは気づいていない。
少しずつクラウディアとの距離が近づいていること。
言葉を交わす機会が増えていること。
それは、シロがクラウディアに心を少しずつ開いているという証拠だ。
本人はまったく自覚していないものの……
優しい彼女と一緒にいることで、シロは笑顔を見せるようになっていた。
そして、温かい気持ちになることができた。
だからこそ、困惑してしまう。
なぜ、こんな気持ちになるのだろう?
相手は敵なのに。
どうせまた、他の大人と同じように酷いことをするに決まっているのに。
それなのに、どうして?
「……」
「どうかされまして?」
じーっと見つめていると、クラウディアは不思議そうに小首を傾げた。
そんな一つ一つの仕草を取ってみても、優しく、シロを見る目に愛情がある。
それが……シロはわからない。
「……ねえ」
「はい、なんですか」
「どうして……」
そこでシロは黙る。
「どうして……なんですか?」
「えっと……」
迷い、迷い、迷い……
そして、思い切った様子で問いかける。
「どうして……私に優しくするの?」




