454話 ありえないこと
今日もアリスと一緒に街へ出る。
ギルドに依頼したガーデンとアムズの情報収集はまだ終わっていない。
しばらく時間がかかるとのこと。
その間、じっとしているなんて無駄だ。
自分でできることは自分でしようと、足で情報を稼ぐことにしたのだけど……
「なかなかうまくいかないね」
「本当に」
色々と聞き込みをしてみるものの、有力な情報を得ることはできない。
誰に聞いてもガーデンとアムズについての詳細な情報、あるは秘密を聞くことはできなかった。
気がつけばそこにいた。
慈善活動をしているらしいけど、詳しいことは知らない。
そんな話ばかりだ。
ここまでなにも得られないと、自分のしていることに疑問を持ってしまう。
気にし過ぎなのでは?
ガーデンとアムズはなにもないのでは?
アリスも同じことを考えていたらしく、表情を曇らせる。
「本当になにかあるのかしら? 悪い噂は欠片もなし。ここまでなにもないと、あたし達が間違っているような気がしてくるわ」
「うーん……実は、俺もちょっとそう感じていた」
「なら……」
「でも、同時に疑問も増えていくんだ。いくらなんでも、ここまで完全な白っていうことはあるのかな、って」
孤児院は昔からあったわけじゃない。
わりと最近にできたものだ。
アムズも地元民ではなくて、別のところからやってきた。
ここまで簡単に街に溶け込むことができるだろうか?
普通は、大なり小なり噂が流れるものだけど……
「あまりにも完璧すぎて逆に疑わしいかな」
「なるほど……そう言われてみると、ちょっと違和感はあるわね」
今は勘でしかない。
でも、こうした小さな違和感が積み重なっていくと、いずれ確信に変わるだろう。
そう信じて行動するしかない。
「よし、休憩終わり。聞き込みを続けようか」
「ええ、了解……あら?」
ふと、アリスが明後日の方向を見て小首を傾げた。
その視線を追いかけるとゴミ置き場が見える。
「あれは……犬かしら?」
なにかがゴミを漁っている。
四本脚でぼさぼさの毛。
でも、よくよく見てみるとものすごい違和感のある造形だ。
犬のような四本脚で……
そこからさらに、手が二本、前に向かって生えていた。
頭は二つ。
大きさは歪で、片方は小さく片方は大きい。
「魔物!?」
「みんな、逃げて!」
アリスの叫び声に反応して、街の人は悲鳴をあげて慌ててこの場から逃げ出した。
まさか、鉄壁の守りを誇る城塞都市の中に魔物が出現するなんて。
「ファ……」
「ちょっとハル!? 街を焼くつもり!?」
「ひどい言われよう……なら、こっちで。フレアソード!」
炎の剣を作り出して魔物と対峙する。
改めて見ると、なんて歪な姿をしているんだろう。
あちらこちらを旅してきたけど、こんな魔物見たことない。
こいつはいったい……?
「ガァッ!!!」
魔物が吠えて飛びかかってきた。
速い……けど、対応できないほどじゃない。
体を捻りつつ、横にステップを踏んで回避。
魔物が横をすり抜けて……
そのタイミングで今度は体を逆に捻り、その勢いで炎の剣を叩き込む。
「ギャンッ!?」
魔物の体を縦に両断した。
魔物は悲鳴をあげつつ地面に転がり、そのまま絶命する。
「ハル、大丈夫?」
「うん。見ての通り、なにもないよ」
「よかった。えっと……街に被害も出ていないわね、よかった」
「……その反応はちょっと納得できないんだけど」
って……
「アリス……この魔物を……」
「……なによ、これ……」
僕とアリスは顔を青くした。
それもそのはず。
倒したはずの魔物は、なぜか子供に姿を変えて……
そしてその子供は、ほどなくして塵となり、風に吹かれて消えた。
俺達はいったいなにを見たのだろう……?




