453話 いよいよ……
翌日。
俺は、アリスと一緒に冒険者ギルドを訪ねた。
「おぉ、あの時の魔法使いの兄ちゃんじゃねえか! 元気にしてたか?」
「どうですか、一杯おごりますよ」
「あはは……嬉しいけど、さすがに昼間からは」
飲みに誘われるのは嬉しいけど、断る。
旧交を温めに来たわけじゃなくて、今回は依頼をしに来たのだ。
アリスと一緒に受付嬢のところへ向かう。
「すみません。依頼をしたいんですけど……」
「依頼……ですか? 請けるのではなくて?」
「はい」
アムズとガーデンのことが気になる。
なので、ギルドに依頼をして情報を集めることにした。
基本、ギルドは依頼者の秘密を守る。
ぽんぽん話していたら信用を失い仕事にならないなら、その辺りは徹底しているはずだ。
俺達が依頼をしても、よほどのことがない限りアムズに気取られることはないだろう。
「……というわけで、お願いできる?」
「はあ……それは構いませんけど、どうして孤児院の調査なんてものを?」
「それは色々とあるの」
交渉を担当するアリスは言葉を濁しつつ、怪しい雰囲気を出さないように笑みを浮かべていた。
よかった。
こういうのは苦手なので、彼女が一緒で本当に助かる。
「では、こちらの依頼を受け付けました。情報収集ということで掲示板には張り出さないので、少し時間がかかるかもしれませんが……私達もしっかりとした人材にお願いするので、そこは安心してください」
「ええ、よろしくね」
「あ、そうそう。孤児院の情報が欲しいのなら、ここに一部がありますよ」
「本当に?」
「設立の際にギルドにも色々と書類を提出しなければいけないので……見ますか?」
「それ、見てもいいの?」
「問題ありませんよ。手順さえ踏めば誰でも見れるものなので」
「お願い」
アリスが書類を受け取り、俺達は談話スペースに移動した。
テーブルの上に書類を広げて、二人で目を通す。
「んー、これといって……」
「特におかしなところはないわね」
申請書類を確認してみたものの、不審な点はない。
孤児院の設立目的は、行き場をなくした子供達の保護。
運営資金はアムズの私財及び、子供達が作ったアクセサリーやお菓子の販売。
資料だけの判断になるけど、白も白。
とても善良な運営をしているように見えた。
「巧妙に隠されているのか、それとも、本当になにもないのか……判断に迷うところね」
「……」
「ハル、どうしたの?」
「うーん……今気づいたんだけど、ちょっと気になるところがあって」
「どこ? 私が見た限りでは、特に怪しいところはないと思うんだけど……」
「ここ」
書類の一部分を指さした。
『子供達の自立性を養い、独り立ちするための支援も行う』
「これがどうかしたの?」
「アリスは孤児院に行ってないからわからないと思うけど……いないんだ」
「え?」
「独り立ちした子供なんて、誰一人としていなかった」
誰かが巣立ったのなら、その痕跡は残る。
使われなくなった部屋、余った衣服、外で活動する子からの報告。
そういったものが一切なかった。
「それは……設立してそんなに経っていないみたいだから、まだ施設を出た子供がいない、とか?」
「その可能性は否定できないけど……でも、もう一つ気になることがあるんだ」
俺とレティシアがガーデンを訪ねた時、たくさんの子供がいた。
いずれも6歳前後。
シロと近い。
そして……
6~8歳くらいの子供しかいない。
「おかしいんだ。普通の孤児院なら、子供達の年齢に大きなばらつきがあるはず。でも、ガーデンは一定内の年齢の子供しかいない」
「それは……確かにおかしいわね」
「まるで、特定の年齢の子供だけを集めているような……そんな感じがしたんだ」
考えすぎかもしれない。
気にし過ぎかもしれない。
でも、こういう時の勘や違和感は無視したらダメだ。
「ハルの言う事が正しいとしたら、ガーデンはシロみたいな子ばかりを集めている?」
「そして、シロは史上最年少の勇者候補。とんでもない力を持っている」
「偶然? それとも……」
わからない。
わからないけど……とても嫌な予感がした。




