449話 次から次に
「新しい魔物?」
アンジュの屋敷に戻ると、ナインから予想外の話を聞かされた。
再び正体不明の魔物が出現したらしい。
シロが真っ先に疑われたみたいだけど、彼女はアリスとアンジュがしっかりと見張っていた。
それと、正体不明の魔物というのは、シロが作り出す人形とは程遠い。
どちらかというと、そこらにいる普通の魔物に似ている。
ただ、角が生えていたり牙が伸びているなど、一部、違うところがあって……
それ故に正体不明とされていた。
「最初はシロ様の力かと思っていたのですが……本人に確認したところ、そのようなものは知らないと」
「嘘を吐いている可能性は?」
「私の見立てになりますが、その可能性は低いと思いました」
ナインがそう言うのなら、そうなのだろう。
いつも主のことを考えて、常に冷静に行動できる彼女が言うのだから間違いない。
「魔物の被害は?」
「幸いというべきか、大した力は持っていないので、冒険者と兵士の方々で対処可能でした。ただ、数が多く……また、不規則に出現するため対処が難しいのが現状です。街の外に出る方は、常に護衛をつけています」
「それは……まずいね」
安全のために護衛が欠かせないとはいえ、その護衛は無限にいるわけじゃない。
たくさんの人が街の外に出ようとしたら足りなくなってしまうだろう。
外からやってくる人は事情を知らないだろうから、襲われてしまうかもしれない。
そうなると交流が止まる。
物流にも大きな影響が出てくるだろう。
兵糧攻めをされているようなものだ。
この状況がずっと続けば、城塞都市は悲鳴をあげて倒れてしまう。
狙いはそこだろうか?
悪意のある第三者によって、城塞都市の機能が狙われている?
「うーん……やっぱり、シロが鍵になるのかな?」
まったくの無関係とは思えない。
むしろ、思い切り関与していると思う。
ただ……
あの様子だから、都合よく利用されていた、っていう可能性は否めない。
そう仮定した場合、黒幕は別にいることになるのだけど……
その影はまったく表に出ていないから、思惑や目的を探ることは難しい。
利用されていたとしても、シロならある程度の事情を知り、手がかりを持っているはずだ。
どうにかして聞き出したいのだけど……
「シロの様子はどんな感じかな?」
「野良猫のようですね」
「野良猫?」
「なかなかこちらに気を許さず、警戒してばかり。近づこうとすると威嚇をされてしまいます」
「……野良猫だね」
しかも、かなり厄介な野良猫だ。
保護したはいいものの、なかなか心を開いてくれない。
時間をかけないと無理。
「ちょっと様子を見たいんだけど、いいかな?」
「はい。こちらへどうぞ」
ナインの案内で別室へ移動した。
3階にある客間で、寝室だけではなくて浴室もセットになっている。
俺達を警戒するシロを思いやり、この部屋だけで完結する場所を用意したのだろう。
「シロさん、一緒に遊びませんか?」
「楽しいゲームなど、色々ありますわ」
「……」
アンジュとクラウディアがシロに話しかけていた。
シロは二人と距離を取り、ベッドの影に隠れている。
ただ、完全に身を隠しているわけではなくて、ひょこっと顔だけを出して様子を見ていた。
二人のことは気になるけど、かといって近づきたくない。
簡単に信じられない。
本当に野良猫みたいだ。
「厄介だね」
軽く開いていた扉をそっと閉じて、ため息をこぼす。
隣にいるナインも似たようにため息をこぼす。
「貴重な情報源ということはわかるのですが、しかし、それだけではなくて、私はシロ様が不憫で……」
ナインの言いたいことはわかる。
シロはまだ幼い。
正確な年齢はわからないけど、10歳になっていないことは確か。
たぶん、6歳前後だろう。
そんな小さな子が周囲を疑い、なにも信じようとしない。
それは、とても悲しくて寂しいことだと思えた。
ナインが同情するのもよくわかる。
「ハル様の魔法で、どうにかならないでしょうか?」
「そんなことを言われても、さすがに……」
魔王を継いで魔力が増した。
色々な知識も手に入れた。
ただ、人の心を開く魔法なんてないし、開発することもできない。
それだけ人の心は繊細で複雑なのだ。
「うーん……あ、そうだ」
しばらく考えて、とある作戦を思いついた。




