448話 すれ違い
「おまたせしました」
アムズが戻ってきた。
人数分のお茶を載せたトレーを持っている。
「あの……」
「はい、どうかされましたかな?」
「……いえ、なんでもありません」
今、誰と話していたんですか?
なぜか、そんなことが妙に気になったのだけど……
今日会ったばかりなのに、あれこれと追求するのは失礼だと思い、やめておいた。
――――――――――
「ん?」
ガーデンの廊下を歩くシルファは、ふと足を止めて振り返った。
客間の方を見る。
「なんだか、懐かしい匂い」
すんすんと鼻を鳴らす。
「ハルの匂い……?」
小首を傾げた。
春のひだまりのような匂い。
大好きな匂いで、ずっと包まれていたいと思う。
ただ、こんな場所にハルがいるとは思えない。
なにかの勘違いだろう。
シルファはそう判断して、客間を離れていった。
――――――――――
アムズとの話を終えて、俺達はガーデンの外に出た。
少し歩いて……
「……」
振り返る。
「なによ?」
「……ううん、なんでも」
綺麗な建物だ。
その外観にふさわしく、子供達は元気に笑顔に暮らしている。
全てアムズの努力なのだろう。
ただ……
うまく言葉にできないのだけど、どこか歪なものを感じた。
子供達の笑顔の裏になにか隠されているのではないかと、そんな疑いを持ってしまう。
そんな妙な違和感。
「それで、これからどうするの?」
「とりあえず、みんなに相談しようか」
シロについて、アムズはこちらの判断に委ねると言った。
無法を行った犯罪人として裁いてもいい。
あるいは無罪放免でもいい。
もしくは、奉仕活動などの罰を与えてもいい。
全て、俺達に任せるという。
「ちょっと、ありえない対応なんだよね……」
今回のことは、アムズはなにも知らないという。
シロが勝手に行ったこと。
そのことについて、どうして? と尋ねたい気持ちはあるものの……
罪と認定されたのならば、意味もなくかばうつもりはない、と。
「無駄に甘やかすよりはいいんじゃない?」
「でも、厳しすぎない?」
「それも、子供達のことを考えて、っていうのもあるんじゃない。人生、一発勝負。やらかしたら、普通、そこで終わりよ。それを教えるために、あえて厳しくしているのかも」
さすが、やらかしの達人。
言葉の重みが違う。
「落ち着きすぎている、っていう違和感があるんだよね」
アムズは子供達を大事にしているように見えた。
その子供がいきなり暴れたと聞けば、普通は動揺するだろう。
でも、アムズはひどく落ち着いていた。
そして、こうするべきと、彼なりの判断を出した。
普通、そんなことはできないと思うのだけど……
「ま、私達だけで考えても仕方ないでしょ」
「……それもそうだね」
まずはみんなで話し合おう。
妙な魔物が出現する、という事件は解決したけど、シロの問題は解決していない。
議論をたくさん重ねて、最善の答えを導き出したい。
……なんてことを思っていたのだけど。
根本的に、今回の事件はまだ終わっていなかった。




