447話 かつての……
「ふむ……それは、どういうことですかな?」
アムズの表情が固くなる。
会ったばかりだけど、彼が孤児院の子供達を大事に思っていることはわかった。
その子供が捕まえられた、と言われたら平静ではいられないのだろう。
ただ、レティシアは強気な態度を崩さない。
「どうもこうも、言葉通りよ。あの子は私達が捕まえて、今、おしおき中」
「おしおき?」
「勇者の使命だー、とか言って、いきなり襲いかかってきたのよ」
「……それは、シロと戦った、ということですかな?」
「無抵抗でやられろ、なんて言わないわよね?」
「それはもちろん。しかし、シロはなぜそのようなことを……」
「誰かに妙なことを吹き込まれたみたいね。私達のことを悪者と思っていたみたいよ」
「ふむ」
アムズは考えるような顔に。
こちらの言い分を完全に信じた様子ではないけど、かといって、そんなことはありえないと一蹴する様子もない。
こちらの話をきちんと聞いて、その上で公平に判断してくれるといいのだけど……
この様子なら、期待できるのかな?
あるいは……
「なんでそんなことになったのか知りたい、って考えるのは普通でしょ? だから今、他の者が色々と話を聞かせてもらっているの」
「……シロと戦った、ということですが、あの子に怪我は?」
「別に。げんこつくらいはくれてやったけど、大した怪我はしていないわ」
「なら、よかった」
アムズはにっこりと笑う。
「そのような事になっているのなら、仕方ありません」
「あれ、信じてくれるんですか?」
予想外の反応に、ついつい口を挟んでしまう。
「実は、やましいことを抱えているのですかな?」
「まさか」
「なら、私としては問題ありません。あの子にも問題があったようなので……ひとまず、あなた達にお任せいたします」
「はぁ……」
「ただ、できるだけ早いうちにシロに会わせてほしいのですが……ああ、もちろん、あなた達も一緒で問題ありませんよ。疑うわけではないのですが、シロの無事を確認したいので」
「……わかりました」
もっともな要求だ。
断るわけにはいかず、頷いた。
「……」
レティシアは、じっとアムズを見た。
「おや、子供達の声が……まったく、お昼寝をするように言ったのに。すみません、少し席を外しますね」
「あ、はい」
アムズは軽く頭を下げて部屋を出ていく。
それから少しして、「お昼寝の時間ですよ」というような声がわずかに聞こえてきた。
「……どう思う?」
念のため、声を小さくして尋ねた。
「正直、なんとも言えないわね」
今までの会話で、レティシアもアムズの人柄やその言葉の正確さを測っていたみたいだ。
乱暴な言葉を使ったのも、反応を見るためなのだろう。
……そうだと信じたい。
素で煽るようなことを口にしていたなんて、あまり思いたくない。
「良い人に見えるけど、でも、なーんか引っかかるのよね」
「どんなところが?」
「わからない。勘よ」
「うーん」
なんだかんだ、レティシアの勘は鋭い。
野生児のような子だから、そういうところは鍛えられているのかもしれない。
そんなレティシアが、アムズになにか引っかかりを覚えると言う。
「正直なところ、俺も気になるんだよね」
「どこが?」
「勘」
レティシアと同じ曖昧な根拠だ。
でも、決して無視することはできない。
無意識のうちになにかを捉えている、ということはよくある話だ。
「ハルの勘とか、頼りにならないわね」
「ひどい」
「あんた、近所の猫を探している時、こっちにいる! とか言って、でもぜんぜんいなくて、私を巻き込んで迷子になったことを忘れた?」
「まだ根に持っていたの、それ……?」
というか、子供の時の話じゃないか。
「そっか」
「なに、ニヤニヤしているのよ?」
「そういうこと、覚えてくれていたんだ」
「なっ……べ、別に!? たまたま、今、ふと思い出しただけよ! 偶然よ!」
「それでも嬉しいよ」
「っ……!!!」
レティシアは、少しずつ昔に戻っている。
いや……
今まで仮面を被っていたけど、それが剥がれて、素が出てきている、と言った方がいいのかな?
どちらにしても、昔に戻れているような気がして嬉しい。
「うん?」
ふと、コンコンとノックの音が響いた。
アムズがノックをするとは思えないから……誰だろう?
「……ああ、君か。大丈夫。お茶なら私がやるよ」
「……」
「……子供達の様子を見てくれるかな? 頼むよ」
「……」
なにやら話し声が聞こえてくる。
相手の声は小さくて聞こえないのだけど……
なんだろう?
なぜか胸がざわついた。




