446話 ガーデン
とても気になる話なので、ガーデンを訪ねてみた。
「おぉ……思っていたより綺麗だね」
公共施設のような、ちょっと年季の入った建物を想像していたのだけど……
そんなことはなくてとても綺麗だ。
建物は、昨日建てられたかと思うくらいにピカピカで、それにデザイン性も高い。
広く高く、たくさんの機能が集約されているように見える。
それと広い庭。
子供達が遊ぶスペースが確保されているだけじゃなくて、公園のような遊具もある。
さらに花壇も設置されていた。
「ふーん、なかなかね」
一緒にやってきたレティシアが上から目線で言う。
勇者候補のシロのことが気になるらしく、ここまでついてきたのだ。
失礼なことをしないか心配なのだけど……
たぶん、大丈夫だろう。
昔から暴走突撃娘っぽいところはあったものの、今は比較的落ち着いて……
……落ち着いている?
いるのかな?
魔人になって、さらに暴走することが多くなったような……?
あ、ダメだ。
ものすごい不安になってきた。
「なにぼーっとしているのよ。ほら、いくわよ」
「あっ、まって、レティシア!?」
帰ってもらおうか迷っている間に、レティシアはずんずんと先へ進んでしまう。
こうなったら仕方ない。
いざという時は魔道具でコントロールするとして、なんとかレティシアを制御しよう。
「おや? お客様ですかな?」
孤児院の入り口まで来たところで、中から人が出てきた。
杖をついた老人で、温和な笑みを浮かべている。
「あ、すみません! 勝手に入ってきてしまって……」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ここにシロ・ニヤルケルっていう子がいる?」
「ええ。確かに、シロはこの『ガーデン』の子ですが……」
「ガーデン?」
「この孤児院の名前ですよ。子供達の家として、帰る場所の名前はあった方がいいかと思いまして、そのような名前をつけているのですよ」
老人は愛想よく笑う。
とても素直な人に見えるけど……うーん?
なんだろう。
なにかが引っかかるような……気のせいかな?
「私は、ここの園長を務めている、アムズと申します」
「ハル・トレイター。冒険者です」
「レティシア。同じく冒険者よ」
彼女なりの考えがあるらしく、『勇者』とは名乗らなかった。
「ところで、シロがどうしたのですかな? もしかして、なにか事件にでも……?」
「ああ、いえ。そういうわけじゃないんです。ただ、ちょっとしたことで彼女と知り合いになったので……」
「あの小生意気な子供の家を見てやろう、と思っただけよ!」
レティシアが胸を張って言う。
だから、どうしてそんなに偉そうなの?
頭、締めるよ?
「そうですか、シロのお友達でしたか。よかったらお茶でもどうですかな?」
「いただくわ」
「いや、勝手に……ああもうっ」
やっぱりレティシアを連れてくるべきじゃなかったかもしれない。
ため息をこぼしつつ、俺達は孤児院に入る。
「園長せんせー!」
「遊んで遊んでー!」
たくさんの子供が押しかけてきた。
皆、笑顔を浮かべていて、アムズに抱きつく。
「おやおや。今はお昼寝の時間ではないかな?」
「えー、それよりも遊びたい」
「うんうん、遊びたい!」
「お昼寝は子供の仕事だよ。遊ぶのはその後にしよう」
「ちぇ、ケチー」
「後で絶対に遊んでね?」
「お姉ちゃんと一緒にお昼寝しようぜ!」
来た時と同じような勢いで子供達はバラバラに散っていた。
勢いがすごい。
子供は元気の塊だなあ……なんて、年寄りっぽい感想を抱いてしまう。
「こちらへどうぞ」
アムズに客間に案内された。
「ふーん、綺麗な部屋ね」
「お客様を迎えるところですからね。それなりに手を入れていますよ」
どうぞ、と紅茶をもらう。
「いただきます」
一口飲むと、ふわりと芳醇な香りが広がる。
ちょっと苦いけど、でも、嫌な感じはしない。
ほのかな苦味があることで全体の味を引き締めているようだ。
「おいしいですね」
「ありがとうございます。実は、紅茶が趣味でしてな。そう言ってもらえると嬉しいですよ」
アムズはにっこりと笑いつつ、紅茶を飲む。
隣のレティシアも気に入ったらしく、しっかりと味わっていた。
「ところで……」
ふと思い出した様子でアムズが尋ねてくる。
「シロは、今、どうしているのですかな? 帰ってこないので、心配しているのですが……」
「あの子なら、私達が捕まえたわ」
「ちょっ!?」
バカ正直に言うレティシアに、俺は紅茶を吹き出してしまいそうになった。




