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444話 もう一人の野良猫少女

 シルファ・クロウブラスト。

 野良猫のような性格をした少女は、強制転移の後、どこにいってしまったのか?


 その答えは……


「すんすん……これ、ハルの匂い?」


 アーランドの宿の一室。

 目が覚めて窓を開けたシルファは、太陽の光をいっぱいに浴びつつ、ぐぐっと背伸びをして……


 ふと、懐かしい匂いを感じて小首を傾げた。


 犬には劣るものの、猫も嗅覚は良い。

 そんな特性を持っています、というような感じで、シルファは同じ街にいるハルの匂いを感じ取っていた。


 ただ、さすがにどこにいるのかまではわからない。


 どこを探そう?

 どうすれば合流できるだろう?

 考えてみるものの、良いアイディアは思い浮かばない。


 普通なら冒険者ギルドを利用すればいいのだけど……

 そういった一般常識を持っていないため、シルファには色々な意味で難易度が高い。


 とりあえず街に出てみよう。

 運が良ければ、街中でばったり出会うかもしれない。


 そんな期待を込めてシルファは散歩に出た。


「ん……おいしい匂い」


 シルファはふらふらと露店に吸い寄せられていく。


「どうだい、嬢ちゃん? ウチのホットドッグはシンプルだけど、素材にこだわっているから抜群にうまいぜ」

「一つちょうだい」

「あいよ、まいどあり!」


 シルファは硬貨を渡して、代わりにホットドッグを受け取る。


 いつぞやは食事をもらうには代金を払うということを知らなかったけれど、そんなポカはもうしない。

 日々、成長しているのだ。


「はむ」


 シルファは手頃なベンチに座り、足をぷらぷらさせつつホットドッグを食べる。


「うん、おいしい」


 肉汁があふれるようなジューシーなソーセージ。

 それをふわふわの柔らかいパンが見事に包み込んでいく。


 空腹が満たされていく。


「……」


 しかし、孤独は満たされない。


 一人でいることを気にすることはなかった。

 仲間なんて概念、なかった。


 でも、今は違う。

 ハルが大事だ。

 アリスもアンジュもナインもサナもクラウディアも、大事な仲間だ。

 レティシアはちょっとよくわからないけど、いたら賑やかで楽しいと思う。


 けれど、今は一人。


「……寂しいな」


 ホットドッグを食べ終えたシルファは、ベンチの上で膝を抱えた。

 膝の間に頭を埋めて丸くなる。


 なぜだろう?

 やけに風が冷たく感じる。


 陽が出ていて、今日は温かいはずなのに……

 寒い。


「どうしたのかな、お嬢さん?」


 顔を上げると、見知らぬ老人がいた。


 やや長い白髪は後ろに流してまとめている。

 髭も伸びているが、丁寧に手入れをされていた。

 それと、特徴的な小さなメガネ。


 知的な印象を受ける老人は優しく笑い、シルファの隣に腰を下ろす。


「……別に」


 シルファはそっけない返事をした。


 人見知りをしているわけではない。

 そもそも、彼女はそんなものはしない。

 ただ単に、なんだこいつ? と野良猫のように警戒しているだけだ。


「そう警戒しないでおくれ。なんだか寂しそうにしていたから、気になっただけさ」

「……」


 心の中を言い当てられたシルファは、少しだけこの老人に興味を持った。


「なにか困っているのなら、私に力になれることはあるかい?」

「……どうして、シルファに構うの?」

「なに、年寄りのおせっかいだよ。それと……」


 老人はにっこりと笑う。


「儂は孤児院を運営していてね……だから、困っている子供を見ると放っておけないのさ」

「シルファ、子供じゃない」

「ははは、そうだね。すまないね」

「むぅ」


 話してみると気さくな人だ。

 話しやすいだけではなくて、不思議と気を許してしまう。


 ……だからこそ、シルファは警戒した。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 全く何処に行ったと思えば(ʘᗩʘ’) この野良猫娘が(´-﹏-`;)取り敢えず野良猫に戻っただけで野生にまで戻って山猫になってないだけましか(٥↼_↼) そんな時に早くもしゃしゃり出てきた…
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