440話 人形使い
土人形達が一斉に襲いかかってきた。
意外というか、その動きはかなり速い。
単純な突撃だけど、直撃したら骨の一本や二本は折れてしまうかもしれない。
「えっと……ファイアボム!」
炎の力を一点に集中させて、爆破。
土人形の頭部が砕け散り、そのまま倒れた。
ただ、他の土人形達はまったく怯まない。
シロが操作しているため、恐怖とかそういう感情は一切ないのだろう。
「「ダブルスラッシュ!!」」
アリスとレティシアは剣技を使い、それぞれ土人形の頭部と胴体を切断した。
悲鳴をあげることはないものの、土人形は体をよじらせて……
そのまま崩れ落ちる。
魔法だけじゃなくて物理も有効みたいだ。
というか、弱点は人と同じなのかな?
「わざわざ土を人型にしているっていうことは、そうした方が操作しやすい。あるいは、操作できない? イメージが大切なのかな? だから、本来なら急所がないはずにも関わらず、首を落とされると消滅した。それは、人を元にイメージしているから。だから弱点も人と同じ……かな」
「わぁ」
ふと、閃いたことを口にしてしまう。
ただ、それは正解だったらしく、シロは感心した様子でぱちぱちと拍手をする。
「少し見ただけなのに私のお友達のことをそこまで理解しちゃうなんて、お兄ちゃんすごいね」
「ということは、正解?」
「うん、正解。でもね……」
シロが笑顔でパチンと指を鳴らした。
その音に反応して、さらに複数の土人形が現れた。
「私、お友達はたくさんいるんだよ。ここなら、いくらでも来てくれるんだ」
見た通り、土を材料にして人形を生成している?
必要なのは魔力だけ?
……ダメだ。
さすがに情報が足りない。
一目でシロの力を解明することは無理だ。
「ファイアボム!」
襲い来る土人形を一体ずつ撃破する。
アリスとレティシアも剣を振り、着実に敵の数を減らしていく。
ただ……
「あはは、強いねお兄ちゃん達。でも、私のお友達は、まだまだたくさんいるよ?」
シロは楽しそうに笑い、さらに土人形を作り出した。
こちらが一体倒したら二体。
二体倒したら四体。
四体倒したら八体……倍々式で増えていく。
なんて厄介な能力だ。
さすがに無限に作り出せるわけじゃないだろうけど……
でも、今のところ底は見えていない。
このままだと物量に押し潰されてしまう。
あるいは、先にこちらの体力が尽きてしまう。
「ちょっとハル! ちまちま戦っていないで、ぶわっと吹き飛ばしてやりなさい!」
レティシアが、そんな鬼のようなことを言う。
確かに、ファイアなら広範囲を薙ぎ払うことができる。
その上のフレアブラストやエクスプージョンなら、まとめて一掃することが可能だ。
「いや、でも……それをやると、あの子を巻き込んじゃうんだけど」
「いいわ、構わない!」
「構わないの!?」
「私に逆らったことを一生後悔させてやるのよ! 謝っても許してやらないわ! 地獄の底で後悔するといい、あはははっ!」
どうしよう。
レティシアの高笑いが様になりすぎている。
魔人になったから過激な性格になったと思っていたんだけど……うーん。
元々、こんな感じだったかもしれない。
「さあ、ハル! 私に逆らう愚か者を吹き飛ばしていたたたたた!?」
「ちょっとストップね」
頭につけた輪が締まり、レティシアは悲鳴をあげて転がり回る。
魔道具で静かにさせたのだ。
「ハル」
アリスは土人形を牽制しつつ、こちらに声をかける。
「悪いけど、あたしもレティシアに賛成よ。まあ、なにもかも薙ぎ払えとは言わないけど」
「え?」
「このままだと物量差にやられるわ。それは、わかるでしょう?」
「……」
「なら、あの子を巻き込んだとしても、それ相応の攻撃をしないと」
「うーん……でも、ちょっと待ってほしい」
けっこうな数の土人形を作り出しているにもかかわらず、シロはまったく疲れた様子がない。
彼女の魔力はまだまだ余裕があるということだろう。
それなら本人を狙うしかないけど……
そんな当たり前の答え、シロが考えていないはずがない。
なにかしらの対策を打っているだろう。
その対策もなんとなく想像がついている。
それが正しいとしたら、尚更、彼女に危害を加えるわけにはいかない。
「……アリス、もうちょっとだけ粘ってくれないかな?」
「なにか考えがあるのね?」
「うん。ただ、ちょっと時間が欲しいから……10分。いや、5分でいいから」
「わかったわ」
即答だった。
「いいの?」
「あたしは、ハルを信じているから」
「……ありがとう」
こんな時だけど、アリスの言葉が心にしみるほど嬉しい。




