44話 北へ
「……というわけなんだ」
冒険者ギルドで得た情報をみんなで共有する。
ただし、レティシアはいない。
レティシアの性格が『なにか』によって歪められた可能性は出てきた。
ただ、そのことがわかったからといって、今の性格がすぐに修正されるわけじゃない。
彼女と一緒にいると、俺の精神がすり減ってしまうので……
ひとまず、今後の話はレティシア抜きで行うことにした、というわけだ。
なにもなくて、ただ単に性格が歪んでいる可能性もあるからな。
「なるほど……それじゃあ、ハルは北へ?」
「そのつもり」
みんなの顔を見る。
「これは完全に俺の個人的な用事なんだけど……でも、なんていうか……みんなが協力してくれるとうれしい。うん、すごくうれしい。だから……力を貸してください」
「「「喜んで」」」
アリスとアンジュとナインが、ぴたりと息を合わせて言う。
「あたしは、ハルのパーティーメンバーだもの。リーダーが無茶苦茶言わない限り、その方針には従うわ」
あれ?
俺、いつの間にリーダーになったんだろう?
「私は、ハルさんに命を助けてもらいました。その恩は、まだまだ返しきれていないと思っています」
俺もアンジュに助けてもらっているから、もう帳消しになっていると思うんだけどな。
というか、そこまで気にしなくていいのに。
「私も、ハルさまに命を救われた身です。そして、不甲斐ない私に代わり、お嬢さまを助けていただきました。ハルさまを第二の主と思い、この身を捧げたいと思います」
そこまで深く考えなくていいんだけど……
ナインの恩義を感じるレベルが規格外な気がする。
「えっと……うん、ありがとう。そう言ってもらえると、うれしいよ」
ここは、素直にみんなを頼ることにしよう。
俺は、少し力が強いみたいだけど……
それでも、一人でできることなんて、たかがしれている。
……思えば、レティシアもそんなことを思っていたのだろうか?
だから、使えないだの雑魚だの言いながらも、俺を傍に置いていたのだろうか?
考えすぎかな?
「ねえ、サナはどうするの?」
ふと、アリスはそんな質問をサナにぶつけた。
サナはいつも通りというか、本を読んでいた。
そんな本をパタンと閉じて、不思議そうな顔をして言う。
「え? 自分は師匠についていくっすよ。そんな当たり前のことを聞かれても、困るっすよ」
「なるほど。質問の意味がないくらい、とっくに決めていた、っていうわけね」
「当たり前っす。自分はもう、師匠なしでは生きていけない体にされてしまったっす!」
「ごほっ!?」
「ハル、あなた……」
「ハルさん……?」
アリスとアンジュが、笑顔でこちらを見る。
笑っているはずなのだけど、笑っていないというか……
普通に怖い。
「えっ、いや!? なにもおかしなことはしていないから!?」
「本当に?」
「もちろん!」
「この前、師匠が自分の部屋に来て、とても口にはできないようなことを……」
「ハル?」
「誤解だ!? っていうか、サナ、ウソつかないでくれ!」
「ごめんなさいっす。ここは、流れに乗っておくパターンかなー、なんて」
「まあ、ハルのことだから、なにもないとは思っていたけどね」
どうやら、みんなにからかわれていたらしい。
心臓に悪い……
「師匠、師匠。出発はいつになるっすか?」
「うーん……逆に聞きたいんだけど、どれくらいがいいかな? みんな、準備が必要だろう?」
「あたしはいつでも。ハルも知ってると思うけど、手荷物なんて大してないからね」
「私は、そうですね……一週間ほどいただけるとうれしいです。北にも巡礼地はあるため、そのための旅という名目にすればいいのですが、場所が遠いため、少し手続きに時間がかりそうなんです」
「私も一週間ほどをいただけると幸いです。長旅になるでしょうから、色々と用意をしておきたく思います」
「自分は今すぐでも大丈夫っすよ」
いつでも平気と一週間ほどほしいと、極端な意見に分かれることに。
「それじゃあ、出発は一週間後ということで」
「ねえ、ハル。レティシアはどうするの? 普通に考えてついてくるわよね?」
「レティシアと一緒に行動するのは、避けたいかな。真偽はどうあれ、あんな性格だから……」
「一緒に旅なんてしたら、師匠がストレスマッハでハゲてしまいそうっす」
サナが俺の心の声を代弁してくれた。
「なら、また撒く方法を考えないといけないわね。それと、レティシアがアーランドにやってきた理由も調べておきたいわよね。偶然と考えるのは、ちょっと都合がよすぎる気がするし」
「そのことなんだけど……撒く方法なら、ちょっとしたアイディアがあるんだ」
――――――――――
そして、一週間後。
俺たちは北へ向かう馬車に乗り、アーランドを後にした。
迷宮都市アズライールは、かなり遠い。
馬車で20日ほどもかかるそうだ。
それだけの距離、時間を一気に駆け抜けることは難しい、というか不可能だ。
なので、まずは中継地点となる宿場街へ。
こちらは、アーランドから一週間ほど。
続けて、小さな村に立ち寄る。
こちらも、宿場街から一週間ほど。
そうして途中で補給を行い、最後の目的地である迷宮都市アズライールへ。
休憩を含めると、計一ヶ月ほどの長旅だ。
「うーん」
コトコトと馬車に揺られながら、ゆっくりと流れる景色を眺める。
考えることは、レティシアのことだ。
迷宮都市アズライールで、レティシアの性格が変わったことについて、なにか情報を得られるだろうか?
みんなに手伝ってもらっているのだから、なにかしら手がかりはほしいところだ。
それともう一つ。
「今度、レティシアと会った時は大変そうだなあ……」
「仕方ないんじゃない?」
俺のつぶやきを聞いて、アリスがそんなことを言う。
「あんなことをされたら怒るってことくらい、幼馴染のハルならわかっているでしょ? その上で実行したんだから、怒られる覚悟はしないと」
「見つかること前提なんだ」
「一応、追跡装置は見つけて外しておいたけど……レティシアのことだから、他になにかしらの手段を用意しててもおかしくないわ」
「そうだよねえ。まあ……レティシアが拘束されているうちに、できるだけ距離を稼いでおこうか」
レティシアを撒く作戦というのは、簡単で単純なもの。
聖女を騙る最初の事件の犯人がレティシアであることを、匿名で暴露したのだ。
匿名故に、効果はそれほど大きくない。
すぐに有罪になることはないが……それでも、無視するわけにはいかず、レティシアは今、冒険者ギルドに軟禁されている。
これで、しばらくは大丈夫だろう。
ただ……
「私との約束を破るなんて……ハルぅ、覚えてなさいよぉおおおおおっ!!!」
という怨嗟の声が、どこからともなく聞こえてきたような気がするのだった。
今日から更新を再開します。
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