438話 現地調査
勇者の墓に現れたという、人形の姿を持つ魔物。
今のところ人を襲う様子はないものの、いつ牙を剥くかわからない。
それに、少しずつ数を増やしているという。
人づてに色々と話を聞いてみたものの、天使と断定することができない。
伝言ゲームみたいになっているせいで、途中で情報が欠落して、正確に判断することができないのだ。
なので、直接現地に赴いて調査することにした。
メンバーは、俺とアリスとレティシアの三人。
アンジュ、ナイン、サナ、クラウディアはいざという時のため、アーランドに残ってもらうことに。
「ねえ、ハル」
山を登る途中、レティシアが口を開く。
「そういえば、ふと思い出したんだけど」
「うん。どうしたの?」
「……いつだったか、あんた、ここにある勇者の墓に私を閉じ込めたわよね?」
ギロリと睨みつけられた。
「そ、そんなことあったかな? よく覚えてないなー」
「へぇ、しらばっくれるのね」
レティシアは俺の前に周りこみ、顔を近づけて睨みつけてきた。
助けを求めてアリスを見るけど、目を逸らされてしまう。
見捨てられた!?
「えっと……」
「……」
「なんていうか、それは……」
「……」
「ゴメンナサイ」
「ん、いいわ」
意外というか、レティシアはあっさりと許してくれる。
あれ、おかしいな?
斬りかかられることは覚悟していたんだけど……
「あの時の私は、まあ……ちょっとおかしかったし。ハルがああしたのも、仕方ないと思うわ」
「……ちょっと、かな?」
「なにか言いたいことでも?」
「なにもありません!」
「よろしい」
ビシリと背を伸ばして、直立不動になってしまう。
一応、許してくれたみたいだけど……
次の瞬間、やっぱり許さない、とか言われてもおかしくない雰囲気だ。
逆らうことができず、彼女の言う通りになってしまう。
「あはは」
ふと、アリスが笑う。
楽しそうに、無邪気に。
子供のような笑顔だ。
「どうしたの、アリス?」
「なんていうか、その……ちょっと昔を思い出して」
「昔?」
「ううん、なんでもないの」
どういう意味だろう?
問いかけようとした時、
「ふふ」
第三者の笑い声が響いた。
慌てて周囲に視線を走らせると、小さな影が見える。
行く手を塞ぐように、道の先に女の子がいた。
背は低く体も小さい。
5、6歳といったところだろうか?
雪を連想させるような白銀の髪は足元に届くほどに長い。
それと、ルビーのような赤の瞳。
まるで人形のように完成された愛らしい少女だ。
フリルがたくさんついた服を着ているため、それが彼女の愛らしさを膨らませている。
片手に熊のぬいぐるみを抱いている。
それもまた、彼女の魅力を引き立てていた。
「君は……?」
「こんにちは」
女の子は熊のぬいぐるみを抱きつつ、片手でスカートを摘み、優雅にお辞儀をしてみせた。
「私は、シロ・ニヤルケル。『人形使い<マリオネットマスター>』って呼ばれているんだよ」
「えっ」
彼女の言葉の意味を理解できず、俺とレティシアは首を傾げる。
一方で、アリスは驚きの声をあげた。
「アリス、あの子のことを知っているの?」
「直接の面識はないけど……ええ、噂なら聞いているわ。見た目通りの年齢だけど、でも、その外見に騙されたらダメ。一見すると幼女だけど、中身は化け物……次代の冒険者を担うと言われている冒険者で、新しい勇者候補よ」
「えっ」
こんな小さな子が冒険者で……しかも、勇者候補?
「ちょっと待ちなさいよ! そんなふざけた話、私、聞いたことないわよ!?」
「冒険者ギルドで少し調べれば、簡単に出てくる話だけど……レティシアは、ハルを追いかけるのに夢中で、ここしばらく、ギルドにまともに寄っていないでしょう?」
「うぐ」
「ハルはハルで、色々と常識がないから……」
「むぐ」
俺とレティシア、揃って返す言葉がない。
なんていうか、こう……もっとがんばろう、と思うのだった。
「くすくす。お兄ちゃんとお姉ちゃん達、おもしろいね」
「それはどうも。それで……次代を担う勇者候補が、どうしてこんなところに?」
「勇者は、悪い人をこらしめるんだよ?」
シロはにっこりと笑い、妖しい瞳をこちらに向けてきた。




