437話 幼馴染は勇者
「なによ?」
朝食時。
夢……というかシノからの念話のことを思い返して、じーっとレティシアを見ていると、その視線に気づいた彼女が訝しげな顔をした。
「ううん、なんでもないよ」
「なによ、変なハルね。ああ、ハルが変なのはいつものことね」
「えっと……いや、まって。そこ、なんで頷いているの?」
アリスとサナが、うんうんと同意していた。
ひどい。
(でも)
今更、レティシアはなにかするのかな?
彼女は勇者で……
シノが言うには、警戒するべき相手。
ただ、最近は、ずいぶん性格が丸くなった気がする。
内の悪魔を制御できているのだろう。
それに、いざという時の魔道具もある。
変なことをするとは思えないけど……
(でも、目は離さないようにしておかないと)
なんだかんだ、なにをするかわからないところがある。
それがレティシアだ。
――――――――――
「ねえ、レティシア」
朝食を終えた後、二人きりになるタイミングを見て声をかける。
「なによ?」
「最近、なにか変わったことはない?」
「突然、どうしたの? なにもないけど……」
「悪魔は制御できている?」
「できているわよ。見ればわかるでしょ」
「なんかこう、がーっ、って暴れたくなったりしない?」
「あんた、私のことをなんだと思っているわけ……?」
「取り扱い注意の時限爆弾」
しまった、つい本音が。
「なに、ケンカ? 言い値で買ってやるわよ?」
「ち、違うから。そういうわけじゃなくて……」
「じゃあ、どういうわけよ」
「えっと……そう! ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「勇者についてなんだけど」
咄嗟にそんな質問が飛び出した。
「勇者って、どういう風に任命されるの?」
「どう、って……ハルも知っているでしょ? それなりの功績を立てた者が偉い人の目に止まり、審査されて、そして称号を与えられる」
「……その選考基準、知ってる?」
「知らないわよ」
今まで、『勇者』という存在を大して気にしていなかった。
人によって与えられる称号で……
そして、一人ではなくて複数人、存在する。
だから、大した意味はないと思っていたのだけど……
(シノの言葉を信じるのなら、それなりに重要な意味があるんだろうな)
って、そうか。
レティシアばかり気にかけても仕方ない。
他にも勇者はいるのだから、その連中に注意をするように……っていう意味だったのかもしれない。
「うーん……どこに焦点を当てて考えるべきか」
「なんのことよ?」
「えっと……」
少し迷ったけど、一人で考えるよりはマシだろう。
そう判断して、シノの話をレティシアにした。
「……っていう話をされたんだけど」
「なるほど……ね」
レティシアは珍しく深刻そうな顔に。
「ねえ、ハルは覚えている? 私に勇者の称号を授けられる、っていう話になった時、一人で王都に赴いたことを」
「うん、覚えているよ」
レティシアとパーティーを組んで、色々な冒険をして……
しばらく経った頃、その功績を認められて、レティシアは勇者に任命されることになった。
その際、称号の授与のため、レティシアは一人で王都に向かった。
神聖な儀式でもある、という理由から同行者は認められなかったのだ。
「俺は、王都の近くの宿場街で待機していたよね」
「そう、その時のことなんだけど……」
レティシアは難しい顔をする。
「私……授与の時のこと、よく覚えていないのよ」
「え?」
「城に赴いて、なんかこう、偉い人から勇者の称号を与えられる式を行ったんだけど……その時の記憶がすごく曖昧なのよね」
「緊張してて覚えていない、とか?」
「おばか。私がそんなこと、するわけないでしょ」
だよね。
レティシアの精神は鋼鉄でできているだろうし、緊張なんてするわけがない。
「なにも覚えていないのよ」
「……」
「当時はさほど気にしていなかったけど……これ、なにかあると思わない?」
勇者。
類まれなる功績を打ち立てた者に授けられる称号。
選ばれし存在。
魔を滅する者
でも……
それは、本当に正しい情報なのか?
その裏に、なにか隠されていないだろうか?
疑念は深まるばかりだった。
次回更新は16日(金)になります。
詳細は活動報告にて。




