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436話 ひとまずは休みましょう

 アンジュのお父さんは申しわけなさそうにしつつ、俺達に協力要請を出した。

 もちろん、断る理由はない。

 快諾して、アーランドを襲う二度目のピンチに立ち向かうことを約束した。


 ただ、今すぐの危機はなくて……

 長旅で疲れていることもあり、まずは休んで疲労回復に務めることになった。


「ふう」


 案内された客室のベッドに寝て、吐息をこぼす。

 こうして体を大きく広げていると、疲れがとれていくみたいだ。


「今まで自覚していなかっただけで、思っていた以上に疲れが溜まっていたのかな……」


 図書館ダンジョンの最深部で魔王と対話をして、世界の真実を知って。

 その後、天使に強制転移させられて。

 最初の街でトラブルに巻き込まれて。

 次の街でもトラブルに巻き込まれて。


 うん。

 なんだ、これ?

 トラブル続きじゃないか。


「たまには……のんびり、したい……なあ……」


 なんてつぶやきをこぼしつつ……

 俺の意識は、ゆっくりと暗闇に沈んでいった。




――――――――――




「やあやあ、久しぶりだね」


 ふわふわと体が浮いている。

 そんな中、見たことのある女性が笑顔で挨拶をしてきた。


「えっと……」

「え? なんだい、その反応。もしかして、忘れられている?」

「そ、そんなことはないよ? えっと……なんていうか……つまり……」

「冗談のつもりだったのに、本気っぽい!?」

「あ、ごめん。本当に覚えているから。大丈夫」


 学術都市にある魔法学院のトップ。

 それでいて、人を捨てた魔人。


 シノだ。


「本当に覚えてくれているのかね……? なんか、とっても不安だよ」


 ちょっとだけ記憶が曖昧になっていました、という答えは控えておいた。


「って、なんでシノがこんなところに……」

「夢を通じて、ちょっと君に語りかけているだけさ。なに、これくらいは簡単なことなんだよ」

「そうなんだ、すごいね」

「すごいね……ではなくてだね」


 やれやれ、とシノは肩をすくめる。


「君、なにがあったんだい?」

「え?」

「え? じゃないよ。先代様との話を終えたと思ったら、いきなり消えちゃうし。連絡もない。なにをしていたんだい?」

「それは……」


 しまった、シノに対する連絡を忘れていた。

 ちょっと気まずい。


 とはいえ、説明は必要だ。

 俺達の身になにが起きていたか、それをかいつまんで説明した。


「ふむ……天使が動いたか」

「フランとフラメウが言うには、部下の暴走らしいけどね」

「……その彼女達からの提案、受け入れるのかな?」

「なんとも言えないよ」


 世界の裏側についての話は聞いた。

 ただ、それの裏付けはとれていない。


 魔王が正しいのか?

 神が正しいのか?


 問題が問題だけに、しっかりと考えて、情報を集めて……それから決断したい。


「シノは反対する?」

「いや。君が決めたことだ、好きにするといいさ。まあ、考えている間、大きな協力はできないけどね」

「それは、俺を新しい魔王と認めていないから?」

「だね」


 簡単に言われてしまう。

 でも、それは予想できていたことだ。


 俺は魔王の力を継いだものの、その思想、目的はまだ継いでいない。

 場合によっては、天使の味方につくことも考えている。


 そんな俺だから、シノは味方になることも敵になることもしないのだろう。

 彼女もまた、俺という存在を見定めているに違いない。


「とりあえず、無事ということがわかってよかった。すでに天使にやられていました、なんてことになったら目も当てられないからね」

「そのことを確認するために、こうして話を?」

「いや。あと一つ……注意を促そうと思って」


 シノが真面目な顔になる。


「察しているだろうが、君の味方になるか敵になるか、迷っているところだ」

「だろうね」

「ただ、いなくなってしまうと、とても困る。だから、ほどほどのアドバイスは送るのだけど……今、どこにいるんだい?」

「アーランドだよ」

「なるほど、だから念話が通じるようになったのか。他は、天使の縄張りが多いからね。って、話が逸れた。すまないね」


 シノは考える仕草をしつつ、引き続き語りかけてくる。


「『勇者』に気をつけるといい」

「勇者?」

「勇者が動いている、という情報が入ってきてね。伝えておかないと、と思ったわけなのだよ。忠臣だろう?」

「それは……でも、なんで勇者が?」

「魔王を打ち倒すのは勇者……昔から、そう決まっているだろう?」


 シノはニヤリと笑う。


「基本的に、勇者は神の駒だ。魔王の下僕が悪魔……魔人であるようにね。魔王である君を狙い、勇者としての使命を果たそうとする。それが、勇者システム。そう、勇者はただの称号なんかじゃない。勇者は神が……」


 そこで言葉が途切れ途切れになる。


「え? ちょっと待って、よく聞こえない」

「あらら、ここが限界かな? やっぱり、長距離の念話は厳しいな。次はいつになるか」

「まってまって。肝心なところが……」

「とにかく、勇者に気をつけるんだ。天使が動いているのなら、勇者も必ず動いている。彼らを……」


 それ以上は聞き取ることができなくて……

 シノの姿が揺らいで、うっすらと消えていく。


 同時に世界も真っ白に染まっていった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 勇者ならハルの隣で寝てるよ 違う人かね…
[一言] 色々ゴタゴタ色々ゴタゴタな日々だったがまだまだ忙しくなりそうだな(ʘᗩʘ’) しかし勇者?今更勇者(?・・)勇者と聞いても最近のがポンコツ過ぎて警戒所か期待もできんが(゜o゜; ただでさ…
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