435話 トラブルは続く
城塞都市アーランドで、無事、クラウディアと合流することができた。
しかし、喜んでばかりもいられない。
クラウディアとは簡単に合流できたものの、シルファは行方不明のままだ。
今、アーランドは正体不明の魔物の脅威に晒されているという。
詳しい話を聞くため、俺達は広い客間へ移動した。
ちなみに、クラウディアは寝室につれていき、寝かせている。
彼女は色々な対応に参加して、力を貸して……
寝る間も惜しんで働いていたそうだ。
「本来、このようなことをしている場合ではないのだが……」
客間へ移動した後、アンジュのお父さんは彼女に潤んだ瞳を向ける。
「よく帰ってきたね……会えて嬉しいよ、アンジュ」
「お父さま……はい、ただいま帰りました」
抱きしめて、抱き返して……
アンジュはちょっと涙声になって、父親の温もりに浸る。
「大きくなったね」
「そうでしょうか? あまり背は伸びていないような……」
「そうではないよ。心の大きさのことさ」
「そんなこと、わかるんですか?」
「もちろんだ。アンジュの父親だからね」
「……ありがとうございます」
親子の絆に、もらい泣きしてしまいそうになる。
「ぐすっ、いい話っす……」
サナは泣いていた。
なんだかんだ、一番、こういう話に弱いんだよね。
「旦那さま、そろそろ……」
「ああ、そうだね」
ナインがそう言うと、アンジュのお父さんは娘を離した。
それを合図に、俺達はテーブルを囲む。
「本来なら娘や、この街を救ってくれた英雄達を歓待したいのだが……今、とても厄介な問題を抱えていてね」
「それが正体不明ですか?」
「うむ」
ある日を堺に、魔物が急激に増加したという。
アーランドは城塞都市の名前の通り、防壁で囲まれている街だ。
魔物の襲撃があったとしても、よほど強力な個体が現れない限り耐えることができる。
籠城戦も考えられて設計された街なので、他所からの補給が絶えたとしても、数ヶ月は耐えることができる。
故に、本来なら魔物は問題にならない。
ならないのだけど……
「今までに見たことのない魔物が出現したんだよ」
「どんな姿を?」
「そうだね……人に近い姿をしている。服飾店にある人形が動き出したような、そんな感じだね」
アリスと顔を見合わせる。
もしかして、天使だろうか?
「こちらから手を出さない限り、襲ってくることはないのだけど、どうにも不気味でね。それで今、警戒レベルを上げていたんだよ」
「そうだったんですね」
「でも、そんな魔物、見かけていないのだけど……」
不思議そうに言うアリス。。
ここまで来る途中、多少、魔物と遭遇することはあったものの、人形のようなタイプは見かけていない。
「すまないね、言葉足らずだった。厳密に言うと、街の近くにはいないのだよ。少し離れたところにある山に、歴代勇者さまのお墓があることは覚えているかい?」
「えっと……あ、はい」
アンジュの聖地巡礼で同行したことがあることを思い出した。
「……」
ついでに、そこにレティシアを閉じ込めたことも思い出した。
そのことを根に持っているらしく、レティシアがギロリと睨んでくる。
うん。
気づかないフリをして話を進めよう。
「あそこで目撃報告が相次いでいてね。もしかしたら、街を攻める準備をしているのかもしれない」
「どうして、ここが攻められると?」
「何度か、斥候らしき部隊がやってきていてね。無関係と考えるのは危険だよ」
「なるほど」
納得する一方で、違和感を覚えていた。
魔物が斥候を放つなんて……
そんな組織だった動き、できるだろうか?
「……それって、いつ頃から?」
ふと思い、訪ねてみる。
「そうだね。少し前からで……」
アンジュのお父さんが口にした日付が、俺達が強制転移させられた日とピタリと合致していた。
あの日を堺に、色々なことが大きく動き出している。
そして、その背後には天使が……
神がいるのだろう。
いったい、彼女達はなにを考えているのだろう?
自分の思うように人間を管理したい。
でも、スタンピードなんて起こすということは、管理とは程遠い行為で……
天才の考えは凡人にはわからないというけれど、それと同じようなことなのかもしれない。
神さまの考えることは、人間には一生わからないかもしれない。




