433話 旅はゆっくりと
みんなががんばってくれたおかげで、無事、路銀を確保することができた。
一日、準備に使い……
その後、海洋都市を出発した。
目的地は、城塞都市だ。
かなり久しぶりに訪れることになるのだけど……
今、どうなっているのかな?
気になっているのはアンジュも同じらしく、
「……ん……」
そわそわした様子で、何度も馬車の外を見ていた。
行く手に視線を向けているものの、出発したばかりなので、当然、城塞都市は見えてこない。
その様子に苦笑してしまう。
「アンジュ、さすがにまだ着かないよ」
「そ、そうですよね……あぅ、恥ずかしいです」
アンジュは顔を赤くしつつ、座り直した。
「アーランドに帰るのは、ハルさんと出会った時以来なので……どうしても気になってしまい」
「うん、その気持ちは俺もわかるよ。アーランドは俺の故郷じゃないけど、でも、気になるからね」
「ハルさんもですか?」
「だって、アンジュの故郷だからね。大事な仲間の故郷となると、気になるよ」
「だ、大事……」
なぜかアンジュが赤くなる。
「どうしたの?」
「い、いえっ、なんでも!?」
なんでもあるように見えるけど……
他のみんなは、いつものこと、みたいな感じでスルーしているから、気にしなくてもいいのかな?
「なあ、兄ちゃん」
ふと、他の乗客に声をかけられた。
馬車を買うのはさすがに厳しかったので、アーランドに向かう商隊に同行させてもらっているから、僕達以外にも人がいる。
こういう場合、運賃を払うことが多いのだけど、今回はタダだ。
ただの乗客としてではなくて、護衛として乗っているから、運賃は相殺されている。
素性の知れない人を護衛として雇うだろうか? という不安は最初はあったけど……
レティシアの勇者としての名声。
それと、サナがドラゴンということで、けっこうな勢いで歓迎してくれた。
「どうしてアーランドに向かうんだ?」
「えっと……仲間の故郷なので」
アンジュのことは伏せておいた方がいいかな? と考えて、少しぼかした言い方にした。
「そっか……そいつはタイミングが悪いな」
「タイミング?」
「確か今、アーランドでは厳戒態勢が敷かれているのさ」
「厳戒態勢?」
アンジュを見ると、私は知りません、という感じで首を横に振られてしまう。
ナインを見ると、やはり首を横に。
「そんなの初耳なんですけど……」
「俺も詳しくは知らないんだけどな。なにか問題が起きているらしいぜ」
「……問題……」
アンジュが不安そうな顔になる。
そんな彼女の手を握る。
「は、ハルさん……?」
「大丈夫」
「……」
「大丈夫だから」
「……はい」
アンジュはにっこりと笑うのだった。
――――――――――
その後、しばらくの旅を経て……
俺達はアーランドに到着した。
道中、盗賊や魔物などに襲われることはなくて、至って平穏な旅だった。
俺達のおかげと、報酬はないはずなのにいくらかのお金をもらうことに。
サナの存在が魔物よけになっていただろう、とアリスが言っていたから……
それなら、と受け取ることにした。
「んーっ……! ずっと馬車に乗っていると、それはそれで疲れるわね」
馬車から降りたアリスは、ぐぐっと伸びをした。
それを真似るように、アンジュとサナも伸びをする。
「アーランド……本当に帰ってきたのですね」
「ナインは、やっぱり懐かしい?」
「はい。色々とありましたが、やはり、ここは私の故郷ですので」
「そっか」
ナインはとても優しい顔をしていた。
そんな顔を見ることができて、俺も嬉しい。
「とりあえず……アンジュの家に行こうか。それから、クラウディアの行方を探して……うん?」
ザッザッザッ、と重い足音が響いてきた。
振り返ると、武装した兵士達が。
二十人くらいいるだろうか?
これは……?




