432話 凸凹コンビ
「猫、見つからないっすねー」
「……」
サナとレティシアが肩を並べて歩いていた。
散歩をしているわけではない。
逃げた猫を探してほしい、という依頼を受けて、街中を探しているところだ。
「出てくるっすよー、にゃあにゃあ」
「……」
「ほら、レティシアもやるっす。にゃあにゃあ」
「……」
「にゃん?」
「あーもうっ!」
レティシアは苛立った様子でサナを睨みつけた。
「なんで私がこんな地味な依頼をやらないといけないわけ!? 勇者であるこの、わ・た・し、がっ!!!」
「ふやややややーーー!?」
八つ当たりとばかりに、レティシアはサナのほっぺをぐにぐにとやる。
サナはされるがままだ。
「理不尽っすよー」
「ならあんたは、こんな地味な依頼が楽しいわけ?」
「んー……師匠の役に立てるなら、なんでもいいっす!」
にへら、と笑うサナ。
その尻尾は、犬のごとくぶんぶんと振られていた。
忠犬。
いや、忠竜。
そんな言葉を思い浮かべたレティシアは、はぁあああああ、と深いため息をこぼす。
「まあ、あんたがそれでいいなら、いいけどね……」
「レティシアは、猫探し、退屈っすか?」
「退屈ね」
「でも、レティシアは目立つから、派手な依頼は請けたらダメ、って師匠に言われてるっす」
「そこがイラつくわ。どうしてハルなんかが、私の行動を管理するのよ? それ、おかしくない? 私がハルを管理するべきじゃない? 依頼だけじゃなくて、プライベートを含む全部を私が管理して……ふ、ふふふ」
「れ、レティシア……?」
暗い笑みを浮かべるレティシアを見て、サナが一歩引いた。
「あ、と……」
ふと我に返った様子で、レティシアは頭を軽く横に振る。
「いけないいけない……また、ダメになるところだったわ」
「大丈夫っすか?」
「……大丈夫よ」
同情なんていらない。
そんな感じで、レティシアはサナから目を逸らした。
ただ、そこで気を使わないのがサナというものだ。
「本当に大丈夫っすか? 頭痛いっすか? また暴走しないっすか?」
「あーもうっ、だから大丈夫だってば!」
「飴ちゃん舐めるっすか?」
「あんたは田舎のおばあちゃんか!」
「うぅ、なんで怒鳴るっすか……?」
レティシアはぐるるると唸りつつ、サナを威嚇する。
どちらが竜かわかったものではない。
というか、勇者とはいえ人間に怯えるサナもサナだった。
竜なのだから、もっと威厳を持ってもいいはずなのに……
まるで子犬だ。
とはいえ、それが彼女の良いところでもあるだろう。
上から見下ろすことなく、同じ位置に立ち、対等であろうとする。
力を持つ者は、なかなかできることではない。
「……」
「レティシア?」
レティシアは無言で歩き出した。
サナが小首を傾げる。
レティシアは、振り返らず言う。
「ほら、行くわよ」
「どこっすか?」
「……猫、探すんでしょ」
「おぉ! レティシアがやる気になってくれたっす!!!」
「か、勘違いしないで! こんな依頼めんどくさいけど、でも、これくらいの依頼もこなせないと思われたくないだけよ!」
「ツンデレっすね」
「叩き斬るわよ!?」
「ひぃ!?」
なんだかんだ……
息の合うコンビなのであった。




