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431話 アルバイト

「い、いらっしゃいませー!」


 とある食堂。

 そこに、ウェイトレス姿のアンジュがいた。


 アンジュは冒険者ではない。

 かといって、聖職を利用して勝手にお金を稼ぐわけにはいかない。


 そんな考えに至り、順当にアルバイトをすることになったのだ。


「嬢ちゃん、注文いいかい?」

「は、はい。ただいま! ……へぶっ!?」


 アンジュは急いで客のところへ向かおうとして、そしてコケた。


「うぅ……」


 慣れない仕事のせいで、アンジュは緊張していた。

 ただ、それ以上に……


「この服、ちょっと恥ずかしいです……」


 いつもは清楚なシスター服。

 しかし今は、フリルがたくさんついたかわいらしいもの。

 おまけにスカート丈が短い。


 ついつい足元を気にしてしまい……

 気がつけばバランスを崩して、何度もコケていた。


 そんなことになれば、角度によってはスカートの中が見えてしまうのだけど……


「……」


 絶妙なタイミングでナインがアンジュの後ろに立ち、視線を遮っていた。


 お嬢さまのパンツは誰にも見せない。

 そんな鉄壁の意思を感じさせる。


 ちなみに、ナインもバイトをしていた。

 ただ、服装はいつものメイド服だ。


 ナインにとってメイド服は正装であり戦闘服でもある。

 こればかりは譲ることができない。

 幸いというべきか、メイド服とウェイトレス服は似ているところもあるため、そのままでいいよ、と店主に許可されたのだ。


「お嬢さま、大丈夫ですか?」

「うぅ……すみません、ナイン」


 ナインの手を借りて立ち上がるアンジュ。

 ちょっと涙目になっていた。


「私、迷惑をかけてばかりですね……きちんとお仕事ができなくて、ナインや店主さんに申しわけないです……」

「いえ、そのようなことはありません」

「でも……」

「お嬢さまのドジなところは、特定の層に大きな人気があります。そのおかげで店の売上がアップしたと、店主も喜んでおりました」

「特定の層……?」

「どうか、お嬢さまはそのままがんばり続けてくださいませ。私も、精一杯サポートいたしますので」


 ナインは真顔で言う。

 ただ、その内心はとんでもないことになっていた。


 コケるお嬢さま、ドジっ子でかわいい。

 コケるお嬢さま、ドジっ子でかわいい。

 コケるお嬢さま、ドジっ子でかわいい。


 ……以下、永遠にループ。


 ナインは涼しい顔をしつつ、ドジっ子な主にひたすら萌えていた。


 メイドがそれでいいのか?

 侍女ならば、主の心配をしなければいけないのでは?

 ……なんて良心がささやいてくるものの、瞬殺されてしまう。


 アンジュの心配をするのが侍女として正しい姿だ。それはわかる。

 しかし、これほどまでに愛らしいのだ。可愛らしいのだ。

 ならば、どうしようもないではないか。

 萌えてしまい、心の中で鼻血を流しても仕方ないではないか。


 むしろ、それを表に出さないことを褒めてほしい。

 なんだかんだ、いつも通り無表情を保っていることを褒めてほしい。


 あぁ……ただ、なんて残念なことか。

 ここに画家がいないことが悔やまれる。

 もしも画家がいたのなら、ウェイトレス姿のアンジュを特大サイズで描いてもらうのに。

 屋敷に持ち帰れば、きっとアンジュの父親も悶えて……もとい、喜んでくれるだろう。


「アンジュ?」

「はい、なんでしょうか」

「どうしたんですか? ちょっと、ぼーっとしているみたいですけど」

「……申しわけありません。少々、考え事をしていました」

「そうですか?」

「はい。お仕事、がんばりましょう」


 アンジュは胸元の辺りで拳をぎゅっとして、にっこりと笑う。


「ぐふっ」


 不意打ちのかわいいポーズ。

 しかも、天使のような笑顔。


 ナインはノックアウト寸前だった。


「あれ? ど、どうしたんですか、ナイン? 大丈夫ですか?」

「……お嬢さま、私はもう、ダメかもしれません」

「えぇ!?」

「ですから、どうか、今の仕草をもう一度……」

「えぇ!?!?!?」


 とりあえず……

 二人のアルバイトは平和に進んでいくのであった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 一度は結婚沙汰でウエディングドレス姿になったのに今度はウエイトレスか(ʘᗩʘ’) しかも純粋種のドジッ娘!?(゜o゜; あかん、最悪死人が出るぞ(٥↼_↼)
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