430話 久しぶりの冒険者業
そういえば……と、今更の話だけど、俺達は定期的な収入がない。
冒険者だけど、冒険者らしいことをしたことがない。
街から街へ旅をして……
そこで起きた事件、トラブルを解決する。
その連続だ。
支援を受けることはあったものの……
それでも限界はあって、ここで路銀が底をついてしまった。
クラウディアのことは気になるけど……
路銀を稼がないと、城塞都市まで移動することができない。
お金って大事だ。
――――――――――
「ハル、そっちに行ったわ!」
「了解!」
俺とアリスは、冒険者らしく魔物の討伐依頼を請けていた。
一攫千金とはいかないけど、堅実に稼ぐことができる。
レティシアも一緒に行く! と言っていたけど……
なんだかんだで、彼女は勇者。
目立つと困るので、控えてもらうことにした。
「いくぞ」
アリスに追い立てられて、ウルフが三匹、こちらにやってきた。
こちらの準備はバッチリ。
魔力を練り上げて……
「あ!? ちょ、ハル……それは!」
「ファイア!」
魔法を放つ。
ゴゥッ! という音と共に紅蓮が舞い飛ぶ。
それらはウルフを飲み込んで……
一瞬で消し炭にした。
「あちゃー……」
アリスはため息をこぼして、やれやれと頭を振る。
それから、こちらにジト目を送ってきた。
「ハル」
「えっと……う、うん」
「魔法はダメ、って言ったわよね? ハルの魔力はバカみたいにバカになっているんだから、絶対にこうなる、って言っていたわよね?」
「そ、そうだね……でも、ほら。最近は俺も、制御とかけっこう上手になってきたから……」
「うまくいくんじゃないかと思った? で、結果は?」
「……討伐証明に必要な素材ごと燃やしてしまいました」
「もうっ」
アリスの視線が痛い。
「確かに、ハルは魔力をきちんと制御しているわ。出会った頃に比べると、ものすごく上達したと思う。まあ、最初からとんでもないレベルだったけど……でも、ハルは魔王になったでしょ? 魔力がさらに増えたでしょ?」
「ですね……うん」
「なら、もっともっと威力を絞る訓練をしないとダメ。今のハルのファイアは、最低出力で放ったとしても、上級のエクスプロージョン並なんだから」
「……ごめん……」
アリスの言うことはもっともで……
凹む。
はあ……
俺、それなりに成長したと思っていたんだけど、まだまだだなあ。
こんなミスをしてしまうなんて。
「ハル」
顔をあげると、優しい顔をしたアリスが。
「あたしが言うのもなんだけど、あまり落ち込まないの」
「でも……」
「今回はちょっとミスしちゃったけど、でも、それは次に活かせばいいわ。でしょう?」
「それは……」
「大丈夫。ハルががんばっていることはあたしが知っているわ。傍で見ている。だから、あまり気負わないで。ハルができる、っていうことはわかっているから」
「アリス……うん、ありがとう」
アリスのおかげで元気が出た。
くよくよしていないで、もっと元気に前を向いていこう、っていう気持ちになる。
「よし! がんばろうね、アリス」
「ええ」
アリスはにっこりと笑い、
「でも、魔法は禁止よ?」
「……はい……」
きちんと笑顔で釘を指してくるアリスは、アリスなんだなあ……って思うのだった。




